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瞠目した凱歌の視線の先は、すぐ先の一点に注がれている。杞梓は周囲を見渡してみた。兵たちは相変らず楽しげに火を囲んでいる。
杞梓は、深々と数度頷いた。
「また飲みすぎたんですか……。いくら百戦百勝と言っても、戦場で幻覚が見えるほど飲酒するのは正気じゃないと思うんです。軍規に禁酒を加えたほうが――」
「大蛇だ! そこにある戦車の轅(=車の先端についた、馬や牛を牽引するための二本の棒)ほどはある!」
「へえ?」杞梓は、感慨深い気分で、整然と並んだ戦車を眺めた。その轅は人の腕より太い。「それで?」
「しかも紫の服を着ていて、頭が二つある! 人の顔だ!」
「一体どれだけ飲んだんですか?」
「こっちを見て口をもごもごさせている!」
「そりゃ危ない。毒でも吐くんじゃないですか、その幻覚」
「おのれ蛇め! 我が営中に単身で斬り込むその胆力やよし! その勇気に応え、我も最新流行の、超貴重なこの鉄製剣で迎えよう! 聞いて驚くな、長剣とは将軍しか使うことが許さぬ、選ばれし激アツ武器なのだあァァ!」
剣閃は、銀の軌跡となりすぐ消えた。凱歌が息を呑むのがわかった。
「幻覚じゃない、弾かれた」
「……もし怪異なら剣は通りません。古典によれば、そういう輩は音が嫌いなんです。大きな、雷鳴みたいな音が」
「わかった杞梓、まずは背中から離れてくれ!」
「女ひとり守れないんですか将軍のくせに」
「む! 我は最強だ! すなおに怖いと言えない杞梓ひとり、背負って戦うなど易いことだ!」
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