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この世のものではないものに見られている感覚。だが初めてではない。これはかつて感じたことがある――
そう気づいた時。眼前に、紫衣をまとった、人の双頭を持つ大蛇が現れていた。
「ようやく、また会えた」
右の頭と左の頭。双頭から同時に放たれる人ならざる韻律の、おぞましさたるや。
だが、凱歌の屍を前にした杞梓は、何もかもがどうでもいい気分だった。
「失せろ」
双頭の大蛇は顔を歪ませた。満面の喜色に。
「返事をしたね? 私が見えると、とうとう認めたね? もう、五年前の戦場でのように、見えないふりは通用しない。汝が一人になる機会を、吾はこの五年、ずっと待っていた。同じ手を食わないようにね。吾が何者か、汝はとうに把握していよう?」
もちろんだ。知らない者は、古典を読まない凱歌くらいだ。
杞梓は諦念とともに、その名を呼んだ。
「延維」
――王になる者の前に現れる神。
「然り。五年前、私は汝にこそ会いに来た。そこの屍にではない。それなのに汝は、あの時私を、存在せぬかのように扱った。私が現れてやれば、ありがたがってもてなさぬ者はなかったのに。よもやこの私を謀り、利用する者がいようとは。全く、神をも恐れぬ奸物だよ汝は」
「凱歌は王になりたがっていました。だから叶えた。見ましたか? 王衣をまとい、南面して座した凱歌の麗姿を。意を得て無邪気に歓ぶさまを。吾はあれが見たかった」
「いまいましい話だけれど、私の姿を見たものは王となる。そういう取り決めなんだ。それゆえ、一度はこの屍も王にしてやったよ。たとえそれが、王気を持つ汝が、故意に体を触れあわせて、凡人の目に私の姿を映させた、偽りのものであろうとね。しかし、わかったろう、偽物は長く王であることができない」
「凱歌は偽王ではない」
「杞梓よ、汝はどこまでも罪深い。ならば、汝が持てるものを用い、偽を真と証立てしてみてはいかがだろうね?」
遠くで雷が鳴り、蛇神は霧散した。
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