兎と奸物

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杞梓は、凱歌以外の者に跪く気はなかった。 腰に提げていた袋に手を入れて、削刀を取り出した。事務用品だが、首くらいは掻けるだろう。 いくら人望のない王とて、一人くらい、殉死者がいてしかるべきだ。杞梓は能臣として名高いから、殉じれば、昏君という凱歌の宮中評価も幾分か和らぐかもしれない。 それに、刃を喉に埋めさえすれば、すぐに凱歌に会える。 ――否。 刃先を見ながら杞梓は考えた。 断じて否。 そんな他人頼りの方法では危うい。 それでは杞梓が殉じて十年もすれば、凱歌が王だったことも、凱歌の国がわずか五年だけ存在したことも、黄土の塵埃の中に消える。 千年先まで認めさせなくては。誰もが凱歌が真なる王だったと疑わなくなる、遠い未来まで。 それができるのは、おそらく自分だけだ。
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