兎と奸物

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凱歌を弑した者は、すぐに判明した。 かれらは、喜色を浮かべてそれを杞梓に報告してきたからだ。 「いつまでも霖を降らせる、天意に見放された昏君よりも、百官(われわれ)に的確な指示を出せる貴殿こそが、王たるにふさわしゅうございます」 杞梓は、莞爾として応えた。 「素敵。(そなた)らの忠義に、吾は感服しました。これからも吾と国に、忠義を尽くしてくれると信じてもよいですか?」 「もちろんでございます」 「それでは誓いの杯を」 杯を飲み干した者たちは、一人残らず長くもがき苦しんで絶息した。 何故。しきりにそう杞梓に訴えながら。 杞梓は最後の一人が死に絶えるまで、冷笑してそれを見下ろした。 何故? 決まっている。千年存続する(くに)を構築するにあたって、迂闊な者を側近にできるわけがないからだ。 杞梓と凱歌は親戚にあたる。杞梓を推戴するなら、同じ血が流れる先代王だった凱歌は、必ず賢君であったことにせねばならない。でなければ王家自体の聖性が失われ、今後の安定統治が困難になる。 ゆえに先のを弑した者たちは大罪人だ。惨たらしく処罰してこそ、杞梓の次王たる正統性が保たれる。 杞梓を担ぎ上げた時に、かれらには自らの貶死が予測ができてしかるべきだった。 これは報復ではない。人事評定だ。 続いて杞梓は、凱歌暗殺に関わった者の中で、杞梓に殺されることを察して速やかに政界から退いていた者を、探し出して招聘し、側近に据えた。有能な者ならば、殺すより使ったほうが利がある。 持てるものを用いて、偽を真と証明せよと、あの神は言った。 凱歌は、これができずに死んだ。杞梓は呼吸のようにやれる。
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