兎と奸物

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「わかっていないのは杞梓のほうだ! 捕虜の管理は負担だ。進軍に差し障る。坑は最高の判断だ! 杞梓なんか、戈さえ重くて持てない軟弱女子のくせにいつも口ばっかり――キャッ!」 杞梓は泥だらけの、先端が方形の(くつ)で、凱歌の足を踏みつけた。 「一度しか言わないですからよく聞いてくださいねクソ兎。それ古来、志半ばで敗れる者が、民心を失うためにだいたい選ぶ最下策です」 「それは困る。我は王になるんだ。王位は最強の証明。最強の者は皆を救うことができ、誰もが従う。最強の名のもとに、戦国は終結する。我は最強だ。それを九州(せかい)に知らしめてや――きゃああっ! 杞梓!」 杞梓は、先刻よりも力を込めて凱歌の履を踏んであげた。 「声が大きい。あんたは将軍で、国の被雇用者だ。簒奪の野心なんて、周囲に見せたらどうなるか想像できないんですか?」 「ああっ、やめて、踏まないでぇ……ぐすっ、わ、我の兵は、みな我の兄弟姉妹のようなものだ! 誰も(そむ)くものか!」 「相変わらず老実(おめでたい)ですね凱歌は。それより、血で汚れたその服、着替えては? (わたし)の予備を貸します」 突然、兎がなぜか赤面した。 「杞梓! そんなに我のことを?」 「は?」 「衣服にはその人の魂が宿るというぞ! そんな重要なものを我に贈るなんて、愛……?」 「着替えないようなので、捕虜を見に行きましょうか。優秀な者を選り、好待遇で召し抱えるんです」
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