神崎秀三郎の受難

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神崎秀三郎の受難

 俺はドラマの監督をしている。最近はいい役者がいないことを嘆いていた。  マニュアル通りというか、奇抜な奴がいない。台本に自分の個性をぶつけた奴が欲しかった。むしろ台詞を少し間違えようと個性的で魅了するような役者がいい。  演技の月刊誌を書いている編集者から、オーディションをしてくれないかと頼まれた。監督の目で素晴らしい新人を発掘して、ドラマの主役にしてはどうだろうという話だった。  俺は興味本位から若手の演技を見てみたいと思った。ベテランよりも個性的な演技を見るいい機会だと思った。  しかしドラマの主役を確実にやらせるのは怖い。ドラマは金がかかっている、スポンサーを頷かせるのも難しい。そこで俺は首を捻った。いい奴がいなかった場合は、受賞者なしということもあることにしよう。  編集者にその旨を伝えると心良く承諾された。さてどんな奴がこの時代にやってくるかと思うと、俺は楽しみで仕方なかった。
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