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門倉研二の覚悟
一ヶ月後、俺はオーディション会場にいた。書類選考で通った百二十名の参加者がいた。この中でたった一人が受賞者。
予想はしていたが厳しい審査になりそうだ。審査は二十人ずつだった。一人一人審査していては時間的にとても終わらないように思っていたので納得した。
まずは街を歩く演技だ。エキストラとしてなるべく目立たないように、でも印象に残る必要があった。
主役の男性とヒロインが街中で偶然再開するシーン。その後ろをエキストラが通る。
「あっ、あなたはこんな所で会うなんて……」
「私もまた会えて嬉しいです」
二人が再開を喜んでいる所を何も言わずに俺は通る。そのつもりだったが、他のエキストラが揉めているのを目にした。
「おまえ、俺の前を通るなよ。監督に見えないだろ」
「エキストラなんだから見えなくていいだろ。俺はオーディションで来ているんだ」
「俺だってオーディションのためだ」
エキストラの男二人が揉めていて、喧嘩が始まった。二人とも失格だなと俺は思っていると、監督が怒鳴っていた。
「おい、何をやってるんだ!」
「監督、俺の邪魔をこいつがしていて。こいつをなんとかしてください」
「なんだと、おまえが邪魔なんだよ。こいつの方がエキストラに向いてない」
二人が殴り合いの喧嘩をするようになった。俺は他のエキストラに迷惑だなと思って、自分が失格になるのを承知で止めに入った。
俺は特に武道の心得があるわけではないので、仲裁に入っても二人に殴られるだけだった。しかしボコボコに殴られる俺を見て、二人は冷静になったようで、喧嘩は終わった。
「監督、申し訳ありません。俺も含めて三人とも失格でいいです」
監督が俺を見て嬉しそうに頷いていた。
「君は合格だ。わざと殴られて喧嘩を止めるなんてなかなかできないことだ。そして喧嘩をした二人は不合格だ」
俺はなんで合格したんだ。他のスタッフからも拍手を浴びた。喧嘩をした二人は俯きながら帰っていった。
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