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門倉研二の不運
街を歩く演技はなんとか合格できた。体がぼろぼろであらゆる所が痛いが。応募者は百二十人から二十人に一気に減った。
次は喫茶店の客を演じる。ここも目立たないようにしなければいけない。
主役がヒロインに別れ話を切り出すシーンだ。
「もう君とは別れようと思う」
「どうして? 私はあなたのことがこんなにも好きなのに」
「君との関係はもう終わったんだ」
目立たないようにしようと思ったが、四人掛けのテーブル席に男四人。それも残りの三人はどこのヤクザだと思うような強面の奴だった。その中で体がボロボロの俺がいる。ヤクザ三人に借金取り立てに遭っているかのような雰囲気だ。
俺は自分の不運に涙が流れてきた。こんな目立つ四人、どう考えてもエキストラじゃない。
そこで監督が声を出した。
「君、いいね。別れ話を後ろの席で聞いて自然に涙が出るとは。いや、たいしたもんだ」
「いえ、そんなつもりでは……」
「君は合格!」
ヤクザ顔の三人が眉間に皺を寄せていた。怖い顔がさらに怖くなった。三人は顔の個性が強すぎて使いづらいと失格になった。顔で判断された三人がかわいそうだと思った
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