置いてくタイプの台風みたいな女の子

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 小学一年生の頃。  おれは友だちの佐竹(さたけ)と一緒に佐竹の家の近くの公園で遊んでいた。  佐竹の名前は翔太(しょうた)でおれの名前は(わたる)だったから、当時はお互いにショータ、ワタルで呼び合っていた。  公園の場所は自分の学区から離れていたけど、親同士で付き合いのある佐竹と遊ぶことが多かったから、おれは隣町の小学校の子たちに混じって遊ぶようになっていた。男子グループはかくれんぼや缶けり、女子はままごとをしている子がチラホラいて、活発な女子は男子グループに混ざったりしていた。そんな中で、いつも離れてふたりだけで遊んでいる女子がいて、それがノリコと横川磨智だった。なにかと目立っていたからこっちは認識していたけど、ふたりとも当時おれが公園で遊んでいたことは知らないと思う。  その日、おれは鉄棒で自慢げに逆上がりをする佐竹の前でヒマしてて、ふと見ると、いつのまにか滑り台の上にいたノリコが、晴れているのになぜか小汚いビニール傘をさしていた。 「あれ、なにやってんだろ?」  って、聞いたら、鉄棒から飛び降りた佐竹は、 「ほっといたほうがいいよ。ノリコとマチって変わってるから」  って、言った。  佐竹の言うとおりにしようと思い、でもなんとなく気になって横目で見ていると、ノリコが「ヤー」という声を上げて滑り台から飛び降りた。そのままお尻から落ちたノリコはLの字みたいなかっこうのまま、怪獣みたいに「ギャー!」と叫び声を上げ、つられるように横川磨智も「ギャー!」と泣き出した。  周りの子どもたちが集まってきて野次馬みたいにふたりを取り囲む。おれは佐竹と一緒に後ろのほうで見ていたけど、そのうち誰もノリコを立たせてあげようとしないのにムカついてズカズカと前まで行って、ノリコの手をつかんで立たせてあげた。後にも先にも、こんな目立つ行動をしたのは、この時だけだ。  泣きじゃくるノリコは、おれの存在に気づくはずもなく、 「傘で飛べないじゃん! 約束がちがう!」  って、喚きながら、横川磨智と一緒に大粒の涙を流し続けている。  助けたはいいけど次にどうすればいいか分からなくて、ニヤニヤしている周りの子たちの目にも耐えきれなくなって、とりあえずふたりを近くのベンチに座らせたおれは、佐竹に呼ばれて逃げるようにその場を離れた。  この日、おれはふたつのことを学んだ。ひとつは「目立つのは危険なことだ」で、もうひとつは「傘で空は飛べない」だ。
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