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「急にごめんね。いま少しいいかな…?」
控えめに声を掛けてきた石田さんに、咄嗟に首を縦に振ったのはいいけれど、正直どうすればいいのか分からなかった。あの事件以来、成瀬さんに“石田には近付くな”と言われていたから。
まあでも隣にマイコがいるから大丈夫だろうと安堵したのも束の間、マイコは「幹事の仕事してくるね」とひと言残し、どこかへ行ってしまった。突然石田さんとふたりきりになってしまい、一気に緊張感が増す。
「あ、これ以上近付かないから安心して。二輪さんにも、花梨さんには指一本触れるなって言われてるから」
二輪さんと石田さんは高校時代のサッカー部の先輩後輩関係だと言っていたけど、相当厳しい部だったのだろうか。石田さんは言葉の通り私と一定の距離を保っていて、驚くほど二輪さんに従順だ。
「こないだのこと、ずっと謝りたくて。本当に悪いことをしたと思ってる。怖い思いをさせてごめん」
頭を深々と下げられ、思わず後ずさった。
「それは…もう大丈夫です。全然気にしていないので…」
確かにあの時は大変だったし、石田さんのしたことは普通に許されないことだと思う。だけどあの事件のお陰で成瀬さんと近付けたのも確かで、今が幸せだからか、石田さんを責める気にはなれなかった。
「もう二度とあんな過ちを犯さないと誓うから。それに、さっき成瀬さんにも釘を刺されたよ。次また花梨さんを傷付けることがあったら許さないって。俺の彼女に手を出すなって、はっきり言われた」
「えっ」
まさかここで成瀬さんの名前が出てくるとは思わなかった。唖然とする私に、石田さんはしゅんとした顔をしながら続けて口を開く。
「ここに来る前、成瀬さんと二輪さんに呼び出されたんだ。まさか花梨さんの彼氏が成瀬さんだなんて、ほんとびっくりだよ。あ、もちろんふたりの関係のことは他言してないから安心して」
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