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「きっと父はまだまだ長生きしてくれると思います。なので、その…母が変にプレッシャーを与えてしまうかもしれませんが、気にしないでくださいね。あの時の言葉はなかったことに…」
「ああ、父親に京香の花嫁姿を見せてあげたいっていうやつ?」
「そ…そうです。あの時は父がいなくなってしまうかもって、そればかり考えていたので…。でももう焦る必要はなくなったので、私達は私達のタイミングで…」
「あの時は言えなかったが、俺も京香の花嫁姿が見たいって、心の中でずっと思ってた」
「え…?」
予想外の言葉に息を呑んだ。目を丸くする私に成瀬さんはゆるりと口角を上げ、続けて口を開く。
「でも花嫁姿の京香の隣に立つ男の姿は想像したくなかった。あの時から、俺が隣に立ちたいという気持ちがあったんだと思う」
「うそ…」
「京香が“頑張っていい人を探して必ず連れて来る”と父親と約束したって話をした時も、もし相手が見付からなければその時は俺が行くのにって、そんなことばかり考えてた」
「それは本当ですか…?」
次から次へと出てくる言葉に思考が追いつかない。
あの時は自分のことでいっぱいいっぱいで、成瀬さんがそんなことを考えてくれていたなんて全く気が付かなかった。
「だから、プレッシャーに感じることはないと思う。俺はあの時からずっと、京香との未来を見ていたから」
繋がれている手が熱い。彼の熱で全身が熱くなる。まるでプロポーズのような言葉に、みるみる顔が赤く染まっていく。
「私も…あの時、旭さん以上にいい人を見付けられる自信がないって、思ってました」
「え?」
「私もあの時からずっと、旭さんとの未来ばかり考えていたのだと思います」
赤面しながら必死に訴える私を見て、今度は成瀬さんの頬が赤色に染まっていく。
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