12183人が本棚に入れています
本棚に追加
一匹狼と言えば聞こえはいいかもしれないけれど、私の場合はただ単に人と接するのが苦手なだけだ。所謂“コミュ障”というやつ。
その原因は、私が抱えている“秘密の悩み”のせいにある。
その悩みは本当に些細なものだけど、私にとってはかなり厄介で、子供の頃からずっと苦労していて…。その秘密のせいで人の目を気にするようになり、そこから無意識に人間観察をするようになった。今だって、私の話をしている社員のことが気になって仕方がない。
裏表がないなんて嘘。ただの誤解。私はただの臆病者だ。
でも、好感を持たれているなら良かった。安心してこのキャラを続けられる。
「そういえば花梨さんってお酒に弱いんじゃなかったっけ。だからいつも飲み会には参加しないんだって、噂で聞いたことがある」
「新歓の時に顔が真っ赤になったってやつ?強そうなのに意外だわ」
「でもそのギャップもいいじゃん。見た目に反して実は可愛いキャラだったりして」
どうやら私の話はまだ終わらないらしい。
続けて聞こえてきたその会話に、思わずドキッと心臓が跳ねた。
“お酒に弱い”という噂は、唯一の友人が流してくれたデマ情報。
新歓の時、私が顔を赤く染めた理由は、お酒のせいなんかじゃない。
顔が赤くなる本当の理由は──…。
「花梨さん」
「あ、はい」
不意に上から落ちてきた声に、ビクッと肩が跳ねた。弾かれたように顔を上げると、そこにいたのは他部署の男性社員だった。
「井上主任が今席を外しているみたいだから、この書類を花梨さんに預けてもいいですか?急ぎのものではないので、お手隙の際にでも目を通しておいてくださいとお伝えください」
「はい、わかりました」
彼女達の会話に集中していたせいで、男性社員がそばにいることに全く気が付かなかった。不意打ちを食らい、心拍数が上がる。
それに焦りを覚え、慌てて目の前の男性社員から手から書類を受け取ろうとすれば
「っ…!」
「あ、すみません」
彼の手が私の手に触れ、心臓が止まるかと思った。
あ、やばい──顔が熱い。
最初のコメントを投稿しよう!