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『改めまして、柊真もとい結城先生、紗雪、おめでとう!』
馴染みの場所Tesoroで、小さな披露宴。
雅人さんの取り仕切りの元、宴が始まった。といっても、皆、店内の勝手がわかってる人たちばかりなので、貸し切りで好き勝手に楽しんでいる。強面のシェフの田代さんだけが忙しそうに料理を作っているが、雅人さん曰く「自分にできる最大の祝福です!」と喜びに満ちた笑顔で言っていたとのこと。
ついこの間まで、結婚式の二次会で、給仕として忙しく働いていたというのに、今日はそんな私が主役なのだ。
それも、初恋の相手だった先生との再会の場所…私たち二人にとって色んな思い出の詰まったこの場所で、大好きな人たちTesoroたちに祝福をもらえる日が来るなんて!
今でもなんだか夢のようだ。
「紗雪、ビックリだよー!改めておめでとう!」
「しゃゆきー」
中学からの親友の里穂が、道外から今日の日のためにわざわざ来てくれていた。
里穂は、大学進学のために道外へ行ってそのまま結婚したので、なかなか気軽に会うことが出来なくなっていた。それでも里穂とはずっと仲が良くて、気心知れた仲だったので、不変の繋がりが私たちにはあった。だから久々に会う今だって離れていた時間を感じさせない。
先生が席を立った隙をついたように里穂が子供を抱っこしてやって来た。
「凌空ぅ大きくなったね、何歳?」
「しゃんしゃい!」
里穂に抱きかかえられている男の子が、ニッコリ笑顔で指で3を作って私に向ける。切りそろえられた前髪と、まんまるのぷっくりした桃色のホッペが愛らしい。
私が「おいで?」と、手を出すと凌空はすんなりと私の元へ来た。
私に体を委ねつつも、ギュッとしがみついてくる小さな人間に、私はキュンキュン母性を刺激される。
「かわいい!懐っこい!」
「可愛い女の人大好きなのさ、旦那そっくり」
里穂は困ったように眉を顰めて笑った。
「それより、結城先生と結婚とか驚きなんですけど!」
「…だよね」
「紗雪、中学から好きだったもんね…」
「え!?うそ、言ってないよね?知ってたの?」
「気づくさそりゃ、ずっと一緒にいたんだから…言ってほしかったんだけどねー…まぁ、言いにくかったとは思うけどさ」
「嘘、ごめーん!」
「うん…でも、良かったね」
里穂は自分のことのように喜んで、お祝いの言葉をくれた。
「結婚はスタートだからね、最初が肝心だよ…」
「え?」
「共働きでしょ?家事の分担とかね、子供出来た時のことも話しておいた方がいいよー」
「こ、コドモォ?」
私は慌てて手で口を塞いだ。
凌空もそれを真似て口を手で塞いでケタケタ笑う。
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