プロローグ

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 「形あるもはいつかは壊れる」  私がうっかり先生の眼鏡を壊してしまった時のこと。  先生は優しく笑ってそう言いました。  それが先生の優しさで、失敗してしまった私への気遣いの言葉だということはわかっていました。  でも、本当は、とことん子供扱いをして叱ってほしかったと言ったら、先生はどんな顔をするでしょうか。  私は先生のことが好きでした。  あの時、悲しみに暮れた私に寄り添って私の心を救ってくれたあの日から…  笑った顔も、憂いた顔も、穏やかな声も、あなたの仕草や優しい気遣いも。  15歳の私は、子供でした。 望んで頑張りさえすれば、なりたい自分になれると信じていたし、理不尽なことに腹を立てては、いつもイライラしていたように思います。 少女漫画やドラマのような出会いや恋愛が、世の中には溢れているものだと信じていました。  そんな子供でも、24歳の先生に恋をしたことを無かったことにはしたくなかった。知ってほしかった、伝えたかった。  後悔しないように…  だから卒業式、私は勇気を振り絞って先生に告白をしました。先生は優しく 微笑んで「ありがとう、元気でな」と言って、頭にポンと大きな手を置いて撫でてくれました。  私は、その優しい手の温もりを今でも覚えています。  中学を卒業して1年半ほど経った頃、風の噂で先生が結婚したと聞きました。その時、私の恋心は強制終了を余儀なくされました。  あれから9年もの歳月が経ちました。  私はあの時の先生と同じ年になりましたが、全然あの頃の先生のような大人になれた気がしません。  いえ、そうは言っても、もちろん体は成熟しましたし、いっぱしにお酒も飲めるようになりました。それなりに恋愛をして、苦い経験もしました。  あの頃よりも少しだけ余裕ができて、年がら年中イライラもしなくなりました。  それから、自分の身の丈というものもわかってきたつもりです。  理想と現実の違いもわかってきましたし、理不尽に目をつぶれるようにもなりました。  これが大人になるという事ならば、私は気づかぬうちにしっかり大人になっていたようです。自分でも驚きです。  それと先生、私はもう一つ驚いていることがあります。  先生、それは…  先生が今、私と熱い口づけをしているということです。  9年ぶりの再会で、まさかこんな展開が待ち受けているなんて、あの頃の私に想像できたでしょうか。  先生、私、あなたの元生徒なんです。  でも、言えない…言いたくない…  この関係を終わらせたくないから。  ごめんなさい先生、私は悪い子です。  でも、許して…  先生が好きなんです…
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