183人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
「元気そうで良かったよ。今、彼氏いるの?」
俊介の問いかけに「関係ないでしょ。仕事中だから話しかけないで。トイレそこだよ、早く行けば。」と、そっけなく返した。
「今日は仕事、何時まで?」
私は俊介に背を向けて無視を決め込んだ。
俊介は「冷たいなー…」と言って、トイレに入って行った。
私はその様子を横目で追って、深くため息を一つついて強張った体を緩めた。
ひとたび嫌いになると、どこが好きだったのかわからなくなる。楽しかった思い出もあるはずなのに…
どうしてあんな人と二年もつき合っていたの?
と、過去の自分に問いただしたい衝動に駆られた。
「紗雪、大丈夫?なんかあった?」
雅人さんが私の背中をポンと優しく叩いた。
「え?」
「眉間にシワ寄ってるよ。」
「あ、嘘、ごめん…切り替えるね…」
「客に何かされた?大丈夫?」
「ううん、違う。知り合いがいただけ…」
「そうなの?大丈夫ならいいんだけど…あ、そろそろ終わるね」
会場は「宴もたけなわではございますが…」と選出された人の挨拶と一本締めでお開きとなった。
皆それぞれ楽しそうに、赤い顔でヘラヘラ笑って帰っていく。
遠くから「三次会行く人〜」と、次の宴の誘いの声が聞こえた。夜はこれから組は朝まで飲み明かすのだろう。
俊介は、私が雅人さんといたので、トイレから出ても話しかけては来なかった。いつの間にか姿も見えなくなって、私は気が抜けてホッとした。
もう、顔も見たくない。
最後の客を送り出すと「お疲れ様です。」と、先生が来店時と何も変わらない様子で挨拶してくれた。
私は、その顔を見ただけで、さっきまでの嫌な気分がどこかへ飛んでいくのを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!