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リハーサルしていたおかげで、私は少しだけ余裕がもてた。
入場前の父は、何故だか私以上に緊張していて、フルフル震えていた。リハーサルの時はそこまでではなかったのに…私の緊張も一緒に担ってくれているかのようだった。だから、私が冷静になれたのはそんな父のおかげかもしれない。
父と深紅のヴァージンロードを歩きながら、ベール越しに参列席に並ぶ大好きな大切人たち顔を見ることができた。みんなにこやかに私たちの式を見守ってくれている。
視線の先にいる先生は、いうまでもなく余裕そうだ。目を細めて愛しそうに私を真っ直ぐに見つめてくれる。だがベール越しに私がまっすぐに見つめ返すと、先生はカチャリと一度眼鏡を直した。
先生のその仕草で、先生も緊張してるんだということが窺い知れて、私はなんだか嬉しくなった。
式は粛々と進行していく。
神父様からのありがたいお言葉、誓いの言葉、指輪の交換、そして…
誓いのキス。
先生は私のベールを静かにあげて、いつもの優しい眼差しで私を見つめて微笑んだ。そして一歩、私に近づいて両腕にそっと手を添える。
先生の顔がゆっくりと近づいてきて、私は目を瞑った。
先生の優しくてやわらかな唇が私の唇にそっと重なる。
私たちは誓いの言葉を封じ込めた。
"病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、先生を…柊真さんを愛し、助け、慰め、敬い、この命のある限り心を尽くすことを誓います"
先生の誓いは二回目だけど、これっきりだから許してね神様…
私は心の片隅でそんなことを思った。
カシャカシャシャ…
静かなチャペル内に神谷さんのシャッター音が響いて、私たちは我に返り、唇を離して二人、照れ笑いを浮かべた。
結婚誓約書に名前を記入して、みんなからの祝福を浴びながら、父ときたヴァージンロードを今度は先生と寄り添って折り返す。
ポカポカと心が温かく、私はこれ以上ないくらいの幸せで満たされた。
私はこの日のことを、生涯忘れることはないだろう。
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