先生とドライブ

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 自宅マンション付近で、先生は車を道路脇に停車させた。  移動時間の約20分間は、それはそれはあっという間だった。  「ありがとうございました。結城さんのおかげで、嫌なこと忘れられて…楽しかったです…」  私は先生の方に体を向けて頭を下げ、改めてお礼を伝えた。  「そんな、こちらこそ…あんな嫌な事あった後で……短いドライブでしたが楽しかったです。紗雪さんが少しでも嫌なこと忘れられたなら良かった…」  先生がそう答えてくれる。  私は、心細さと、名残惜しい気持ちもあって、先生が「もう少し一緒にいましょうか」なんて言ってくれないかな…と淡い期待を込めて、ほんの少しの間、先生を見つめた。  それはさすがにあり得ないか…  と、視線をそらして「それではまた。」と、シートベルトを外そうとした時、先生が「あの…」と私を引きとめた。  ――― 思いが通じた?  私は驚いて先生に視線を戻した。  「番号…交換しませんか。」  先生がそう言って、スマホを手に取って見せた。  「何かあった時に、助けになれるかもしれないし…無理にとは言わないけど…」  「いえ!あ…えっと…有難いです。お願いします。」  まごつきながらコートのポケットからスマホを取り出した。  期待した言葉じゃなかったけど、連絡先の交換だなんて、関係が一歩前進したことに嬉しくなる。  私達は番号とLINEを交換して、その場で適当にスタンプを送りあった。  「ってこう書くんですね。」  「冬生まれってバレバレの名前ですよね…結城さんのアイコンはポメラニアン?可愛い!飼ってるんですか?」  「実家でですけど、可愛いでしょ?」  「名前は何くん…何ちゃん?」  「ちゃん、2歳です。」  「可愛すぎるー!今度写真見せてくださいね!」  結局また話が弾んで、私の思惑通りもう少しどころか、すっかり遅くまで引き止めてしまった。  「オートロック付きで安心しました。」  先生は車から降りて、マンションの入り口まで送ってくれた。  「明日もお仕事なのに、遅くまでお付き合いさせてすみません…お気をつけて…」  「不安なこととかあったら、遠慮なく相談してください。」  「本当に、ありがとうございます。」  「じゃあ、またTesoroで。」  先生はマンションのドアが閉まるまで見送ってくれた。  部屋に帰り、シャワーに入ろうと服を脱いだ時、微かに先生の車の香りがした。そして、何度も盗み見した先生の横顔が思い出されて胸がキュウっと締め付けられる。  それが苦しくも、なんだか不思議と心地がいい。  もうダメだ。  好き…
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