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<番外編>マサトの側面
可愛い姪の紗雪が、元彼に付きまとわれたという。
無理やり連れて行こうとされて、手に痣が出来るほど強く握られて、紗雪はさぞ怖かったことだろう。
今日、たまたま仕事が早く終わった柊真が店に来たから、その場に遭遇して事なきを得たが、あの時柊真が来なかったらと思うとゾッとする。
今後つきまとわないと約束させなければ、いつまでも紗雪の不安は消えないだろう…
あの時の新婦と同僚だということは、奴はディーラー勤務だ。店舗は柊真が新郎伝いに聞けば、すぐにわかることだ。
「シェフ、さっきは紗雪にありがとう。明日だけど、仕込み前にちょっと一緒に来て欲しい所があるんだ。」
ウチのシェフは人見知りでシャイなのだが、顔がコワイ。というか自前の強面に、人見知りでシャイということが更に顔をコワくしているという悪循環。
初めて会ったときは、どこぞの組の人ですかと思ったほどだ。
だが、本来はとても心根の優しい人だ。
「はい、マスターお供します。」
"雅人は強面シェフを仲間にした"
さて、どういう手順でいこうか…
*
「予約してた織田です。只野俊介さんお願いします。」
強面シェフに変な柄のシャツを着せて、俺は色眼鏡をつけて、ディーラーへ乗り込んだ。
とは言っても、適当な嘘をついて俊介指名でアポイントメントをとっておいたので、スムーズに俊介に会うことができた。
「お世話になっております。只野俊介です。」
と、名刺を渡された。
こいつか…
俺の可愛い姪っ子を苦しめる奴は…
自分でも眼光が鋭くなるのを感じた。
俺が紗雪の叔父とは気付いてないにしても、厳つい格好の男二人を前にして、緊張しているようだ。
「あの、どなた様かからのご紹介でしょうか…」
俊介は、ありきたりで決まりきったルーティンで挨拶した後にそう聞いてきた。
初めての客なのに、なぜ自分を指名したのか不思議だったのだろう。
俺は、適当なありがちな名前を言っておく。
少々腑に落ちない様子ではあったが「そうですか…」とテーブルに案内されて飲み物のメニュー表を渡されたので、適当にコーヒーを頼んだ。
「君は、ここに入社して何年目?」
俊介が「え?」と、予想外の質問に困惑している。
「四年目です…」
「そっか、仕事は楽しいですか?」
「…そ、そうっすね…やりがいはあります…」
質問の意図が読めず、不安そうな表情だ。
「ちょっと、車の買い替えを検討しているんだ…」
脅しの前置きを程々にして、ちゃんと仕事をさせることにする。
ただ脅しのためだけにわざわざアポを取って、仕事の邪魔をするというのは、俺の流儀に反する。
コイツが悪くても、ディーラーに罪はない。
それに、本当に車の買い替えを検討している。
もちろん、コイツからは絶対に買わないけど。
俊介は声をひっくり返しながら、自社の人気の車の仕様やお勧めのポイントなどを説明してくれた。形式上仕方なくといったように試乗も勧められたが 「今日のところは…」と遠慮した。
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