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口づけとモトヅマ
あれから三日経った金曜日。
俊介からTesoroに一通の手紙が届いた。
私宛だったが、目の前で雅人さんが開封してくれた。
手紙の内容を要約すると、不快な思いをさせたこと、無理強いしたことの言い訳と、謝罪だ。
反省してるんだかしてないんだか、よくわからない内容だったが、取り敢えず『もう付きまといません』という内容が書かれてあって、少し安心した。
雅人さんはよくわからないが「奴なりの誠意なのかな」と何故か満足げにしていた。
明日から、巷ではゴールデンウィーク。
土曜日の祝日で、少しだけ損した気分だが、朝から休みなのは嬉しい。
クリニックは日曜祝日が完全に休みなところがいい。でも、そのかわりTesoroは多忙極まりないのだけれど…
今日は給料日後の花の金曜日。しかも、明日は祝日となれば、客入りも多くなる。
目の回るような忙しさだったが、スーパーアルバイトの鈴木さんの力を借りて窮地を凌いだ。
「ゴールデンウィーク明けに一人、大学生のバイト入るから…それと、ゴールデンウィーク中はオーナーがホール出てくれるから、それでどうにかなると思う。」
「へぇ、大学生…いい子だといいなぁ…って、え?オーナー?あのオーナーがホール?」
「そう、ああ見えてすげーできる人だから安心して。」
「そうなんだ…オーナーと働くなんて緊張するなぁ…」
「意外と普通だから大丈夫。」
雅人さんはオーナーの話になると、表情が柔らかくなる。
たぶん、他の人は気づかない程度なのだけど、私にはわかってしまうのだ。
でもきっと、雅人さんは知られたくないだろうから、私は知らないふりを通している。
「おお、柊真いらっしゃい。」
「雅人さん、どうもー…生一つで」
「この間の紗雪の送り、サンキューな。」
私が厨房でお皿を食洗機にセットしていると、ホールの方から雅人さんと先生の話し声が聞こえてきた。
…え、先生?
朝から働き詰めで疲れ切っていたが、その疲れが吹っ飛ぶほどに嬉しい。テキパキと洗い物を片付けてホールへと出て行くと、カウンターに私服姿の先生の姿があった。
私は、喜びのあまり飛び出して来たと悟られないように、気持ちを落ち着かせて「あ、結城さん、いらっしゃいませ…」と、少しすまして挨拶する。
先生は、ゆったりとした黒い七分袖のTシャツにデニムパンツというラフな格好で、いつもより若く見えて、私の胸をキュンと鷲掴みにする。
先生は私を見て「お疲れ様」と二重瞼の優しい目を細めて穏やかに笑った。
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