口づけとモトヅマ

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 注文した料理が揃い、鳥串を「熱っ…」と言ってハフハフして食べる先生が可愛くて、それを見ているだけでビールが進む。  今日は朝から働き詰めで疲れていたこともあって、私はジョッキ二杯目ですでに酔いが回ってきていた。楽しくてふわふわして、心地がよくて、顔がほころぶ。  「もしかして、もう酔った?」先生が私を心配そうに見つめる。その眼差しが優しいから、やっぱりニヘラニヘラしてしまう。それに、今日の先生は敬語が抜ける時があって、気を許してくれているようで嬉しくなる。  先生の敬語は、私を大人扱いしてくれている証だと思って、ずっと嬉しかったのだけど…  「大丈夫です」とピースサインをして見せた。  先生は何杯目なんだろう?相変わらずずっとビールだけど、ちっとも変わらず涼しい顔だ。  常連客の誰かが言っていたっけ「教師と公務員はずっとビールだよな」と。 あながち間違っていないのかもしれないなと思った。  それよりも、結局ずっと聞けないでいる先生の恋人関係…  今なら聞けるかも…  浮気とかするタイプには見えないし、私を車で送ったり、こうやって二人きりの飲みの誘いにものるということは、フリーってことでいいんだよね?  「今、お付き合いしている方いたりしますか?」   考えていたことが不意に口から飛び出してしまっていた。  何の脈絡もなしに、不自然すぎるでしょ…  私のバカ…  顔が一気に熱くなる。  先生は少し驚いた表情をしたが、直ぐに「いませんよ」と答えてくれた。  それから「いたら、こんな風に二人きりで飲んだりしないでしょ」とキッパリと言った。   至極真っ当な意見に安心したのも束の間、意味ありげな直球の質問のを取り繕うための次の一言を何にするか、アルコールで鈍った頭をフル稼働させる。  「普通そうですよね…浮気する人の心理って、どんなですかね?バレなきゃいいと思うんでしょうかね…」  何の意図もなしに、今までの会話の中からすくい上げただけの質問だったのに、その質問で急に先生の表情が曇った。  「…どんなだろうね…俺にはわかんないな」  少し沈黙してから小さな声で悲しげに、そして少し怒りをはらんだようにそう呟いて、先生はその負の感情を誤魔化すようにビールを呷った。 一人称が“俺”になってドキッとする。  私の知らない先生の顔…  何か過去にあったのかもしれないけれど、私にはそこに突っ込んで聞く勇気はなかった。  「そうですよねー…私もわからなくて…あ、あの例の元彼なんですけど…」  私は続ける会話に困り、少し饒舌になって自分の話を始めた。先生は優しく静かに相打ちをうって聞いてくれる。  こんな話がしたかったわけじゃないのに…  私のビールを飲むピッチがあがる。
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