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外からチュンチュンとスズメの鳴く声が聞こえる。
目を覚ますと、見覚えの無い部屋。
私は、ゆったりとしたベッドの上にいた。
不用意にも天竺素材のシーツが心地良い。
部屋の中は薄暗いが、グレーのカーテンの隙間から少しだけ光が差し込んでいる。
朝?
いつも先生から香る上品なサボン系の香りを強く感じて、先生の部屋だとすぐに気づいた。
ブラの締め付け感と、パンツをはいていることは瞬時に分かったのだが、足元がスースーするなと、恐る恐る布団のを覗くとブラとパンツの上にダボダボの男物のTシャツ一枚しか身にまとっていなかった。
え、嘘…
これは、どういうことだ?
あれからどうしたっけ…
何で先生の家にいるんだろう?
すごい迷惑かけたんじゃ…
困惑しながら、昨夜の出来事を思い返す。でもいくら思い返そうとしても、私の記憶は先生とキスしたところまでで、その後のことはまるで覚えていなかった。
なんなら、キスしたこと自体も朧気で、夢だったかもしれないと思うほどだ。
先生はどこ?
私、自分からあんな…
夢…じゃないよね?
完全に誘ってたよね…
軽い女って思われたかな…
どんな顔して会えばいいの…
私がベッドの上で右往左往していると、先生がノックしてドアの隙間から「朝食作ったんですけど、起きれますか?」と、そして「服と鞄はそこの棚の上にあります。」と声をかけてくれた。
その声のトーンはいつも通りだったし、そのまま閉じこもっているわけにもいかず、私は着替えておずおずと部屋を出た。
「おはようございます…あの…私、昨日ご迷惑おかけしましたよね…」
先生の顔が直視できず、モジモジと俯いたまま、チラリと視線を上げた。
先生はいつもと変わらず爽やかで、コーヒーの入ったマグカップを私に差し出して「ブラックでいい?まぁ、座って食べよう」と微笑んだ。
テーブルにはフレンチトーストと野菜サラダが用意してあった。
そのテーブルがあるリビングは、二人掛けのグレーの布張りのソファーとテレビしかなくスッキリしている。キッチンは対面式でカウンターになっており、ノートPCが置いてある以外は無駄なものが一切ない。部屋のつくりからして1LDKといったところだろうか。そう広くはないが、ラグやファブリックはグレーで、家具は全てウォールナットで統一されていて、お洒落なモデルルームのようだ。
部屋の奥にはベランダへ出られる大きな掃き出し窓があって、そこからの日差しは白い無地のレースカーテン越しにやんわりと柔らかく、少しだけ開いた窓からは、爽やかで新鮮な空気が入ってきてカーテンをユラユラと揺らしている。
記憶をなくして、気持ちが落ち着かない状態でなければ、とても素敵なシチュエーションなのだが、私はそんな爽やかな朝を味わう余裕がまるでなかった。
私はソファーとテーブルの間に座って「いただきます」とコーヒーをひと口飲んだ。
先生も同時に私の斜め横に座って「どうぞー」と言ってミニトマトを頬張った。
「私、実は、昨日のことよく覚えていなくて…」と私がいてもたってもいられずに話を切り出す。
「あー…かなり酔っていましたからね…」と、先生はクスクス笑った。
先生の様子からは全く昨夜の状況がわからない。
「あの…何か私、やらかしてますか…」と私は、意を決して聞いてみる。
先生は、少しの沈黙ののちに「どこまで?どこまで覚えていますか」と静かに尋ねた。
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