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「このタイミングで言うのも変かもしれないけど、言っておかないと思って」と、切り出した。
「……実は僕、一度結婚しているんです…」
先生は私を開放すると、静かに話し始めた。
突然の告白に少し驚いたが、やっぱり学生時代に聞いたあの噂は本当だったのかも…と、理解した。
私が先生から離れて座りなおすと、先生は「3年前に離婚して、今はバツイチの独身です…」と続けた。
私は返答に困って「そう…なんですね…」と返す。
実際、私にとってはバツイチだろうと、バツニだろうとどうだっていい。先生と一緒にいられるなら、そんなことはほんの些細なことだ。
でも、離婚の理由は気にならないといえば嘘になる。
まだ気持ち残っていたりしないのかな?とか子供いたりするのかな?とか、まだ繋がりがある?とか…
考えずにはいられなくて、モヤモヤと考えてしまって黙っていると、先生が 「嫌になった?」と、寂しそうに笑った。
「いえ、全く…でも…どうして…」
私はそこまで口にして「あの、無理に聞こうとは思わないので…」と、付け加えた。
先生は「やっぱり、気になりますよね…簡単に言うと相手の不倫です」と答えた。そして、大きなため息を一つついて続けた。
「元妻は高校の教師だったんですけど、その不倫相手が元生徒だったんです……ありえないでしょ…生徒に社会のルールや道徳をも教える人間が元生徒を相手に不倫なんて…」
いつも穏やかな先生が、少しだけ感情的になった。
私は体が凍り付く思いがした。
浮気された者の悲愴感を私は知っている。
けれど、先生のそれは彼氏の浮気どころの話じゃない…
元生徒と不倫…
裏切り、喪失感、同じ教師として許せない思い、色んな負の感情に押しつぶされたに違いない。
その時の先生のことを思うと胸が苦しくなって、涙がこみ上げてくる。
それに、元生徒って…
「紗雪さんは、優しいね…」
先生が私の涙を指で拭ってくれた。
「そもそも、結婚自体が早すぎだったんだ…」
「え…それはどういう…」
先生はバツの悪そうな顔をして「長いよ?」と言って話し始めた。
元妻とは大学時代の友人の紹介で付き合うことになったのだそうだが、付き合って二年ほど経った時、元妻の母親が持病が悪化したというのだ。
「いつ死ぬかもわからない…娘の花嫁姿を見たい…」という母親の望みをかなえるために、取り急ぎ結婚の話になっていったのだとか。
元妻は母子家庭だったこともあって、母親を安心させたかったのだという。
それなのに、その元妻は先生と結婚が決まった時にはすでに不倫した男子生徒と教師と生徒という関係を逸脱していたという…
これは後から知人から聞いた話だそうで、先生が知ったのは結婚して二年目のことだったと言った。
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