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「結局、義母の持病は結婚式の頃には快方に向かって、その後も病状は安定していて今もご健在。まぁ、これは結果論なんだけどね。ただ、結婚当初から裏切られていたなんて思いもよらなかった…俺は必死で支えになろうとしていたのに、完全に裏切られて、しかもその相手が元生徒って…」
先生はそこまで言って、目を瞑り、深くため息をついた。
私は涙が溢れて止まらなかった。
その時の先生は耐え難い怒りと悲しみに襲われたに違いない。
「ツラいこと…話させて…ゴメンナサイ…」
私が鼻をすすりながらそう言うと、先生は優しく微笑んで「もう三年も前のことだから…」と、箱ティッシュをとってくれた。
私はティッシュで涙と鼻水を拭いて、呼吸を整えた。
先生は「僕のことなのに、泣いてくれてありがとう。」と言って私を抱きしめてくれた。
私はブンブンと首を横に振って、先生の背中に手を回した。
先生のツライ過去の話に同情したが、同時にそんなことがあったから今こうして手の届かなかったはずの先生が、私の腕の中にいるのだなと思ってしまう自分がいた。
そして、それと同時に怖くなった。
元生徒だということ伝えないのは、裏切っていることにならないだろうかと、不安と、罪悪感に襲われる。
もし、今、私が元生徒だということがバレてしまったら、先生は私のことを嫌になるかもしれない。
「元生徒なんて考えられない」と、突き放すかもしれない。
先生…先生…
どうしようもなく先生のことが大好きで、溢れる気持ちを抑えきれない…
ただ傍にいたいだけだけど、それでもやっぱり裏切りなのかな…
「好きです」
気持ちが溢れて、口から零れ落ちた。
先生は優しく「僕もです」と囁くように返してくれる。
私の目からはまたポロポロと涙が零れて、グスグス言っている私の顔を見て、先生は「もう、そんなに泣かないでー…」と目元にキスをくれる。
それからまた抱き合って、ゆらゆらとゆれたり、ギュッと力を込めたり、ポンポンと背中を叩いてあやしてくれた。
そして「浮気する人の気持ちなんて、わからなくていいよね…」と先生は静かに言った。
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