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好きのハジマリ
連休中、Tesoroのヘルプに入ってくれたオーナーの明さんは、ホールのスペシャリストだった。そして、とてもいい人で、私に対しても偉ぶることはなく、親しみを持って接してくれたので、忙しいながらも楽しく働くことが出来た。
中性的な整った顔立ちが客受けして、「一緒に写真撮ってください」などと声をかけられていたのを何回か見かけた。そして、やんわりとかわすのも上手く、こんな器用な人間がいるもんかと感心した。
そんなこんなで、あの日以来、先生と会う暇もなく私の怒涛の連休が忙しなく過ぎ去っていった。
「いらっしゃいま…え?結城さん!」
「こんばんは。今日ならそんなに混んでないかなと思って…」
私は嬉しくて、今にも飛び跳ねてしまいそうになる衝動をどうにか落ち着かせる。きっと締まりのない顔でニヤついているに違いないのだが、それは抑えられそうになかった。
「カウンターちょうど空いてます。」
「うん、ありがとう。」
白のカットソーにベージュのジャケット、黒パンツという爽やかな私服姿の先生は今日も相変わらず素敵だ。
「おお、柊真、いらっしゃい。ビール?」
「いえ、車なんでウーロン茶お願いします。」
雅人さんがカウンターで先生に声をかけて、なにやら話し始めた。
私は仕事をしながらこっそり先生を盗み見る。
しかし、それを明さんに気付かれれてしまって「あの人のこと好きなんだ?」と、小突かれる。
「え?いや、えーっと、はい…」
私は、顔が熱くなるのを感じた。
「今日は連休最終日だし、混まないから早めにあがっていいよ。雅人には言っておくからさ…」
明さんはそう言って、パチンとウィンクする。
こんなにも自然にウィンクができる日本人はそういないと思う。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ、せっかくの連休だったのにありがとう。」
「いえ、明さんのプロフェッショナルっぷりが見られて、光栄でした。見習いたいです。」
「紗雪、本当いい子。これからもTesoroをヨロシク。」
「はい!」
そう言って、明さんは雅人さんを呼んで裏の方へ連れて行った。
私はカウンターの先生の元に行って、早く上がらせてもらえそうだと伝えると、先生は「何時まででも待つよ」と言ってくれた。
そして「雅人さんに紗雪さん送るって伝えちゃったけど、まずかった?」と続けた。
「雅人さんには何も言ってないから、ビックリしているかもしれない…」
案の定、裏から戻った雅人さんは私に向かって突進してきた。
「そうなの?え、いつから?」
私と先生の顔を交互に見る。
私たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
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