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「ね、お互い年齢知ってる?紗雪はこう見えて24だし、柊真は33だよ?」と急に雅人さんが言い出す。
「こう見えてって何よ…」と、私が雅人さんにくってかかると、その隣で先生が「…え?」と驚いた顔をしていた。
「え、紗雪さん24なの?」
先生が私に聞いてきた。
私は「はい…」と答える他ない。
先生は口に手を当てている。相当驚いた様子だ。
「えー…いくつだと思ってたんですか…」
思いがけない反応に、私は恐る恐る聞いてみる。
「ゴメン、落ち着いていたから26,7だと思ってた…」
いや、実際27,8だと思っていたんだろうな…と、何となく察する。
そして、私は焦燥感を抱きつつ「年齢は大事ですか?」と聞いて、先生を見つめた。
「いや…知らなかったから驚いただけ。大丈夫……ちなみに紗雪さんこそ大丈夫なの?」
先生がそう返すが、言い終わらないうちに私は「知っていましたし、問題ないです」とキッパリ答えた。実際、そんなことは何を今更のことだ。
先生、私の年知らなかったんだ。
思ったより若くてどう思ったかな…
まさか、やっぱり無理ってこともあり得るのかな…
元生徒だってバレちゃうかな…
不安が次から次へと押し寄せてくる。
そんな私の表情から察して、明さんが「雅人は叔父とはいえ、部外者なんだから口挟まない。それに、Age is just a number. 年なんてただの数字だってイギリスの女優さんが言ってるし、その通り!No problem」と言って、またさりげなくウィンクをくれる。
「ま、柊真なら…」と雅人さんが呟いた。
「紗雪、もうさっさと上がっちゃって、連休最後に楽しんでおいで」
明さんが私の肩に手を乗せて、裏の方へと私を連れて行くかと思うと、急にオーナーの顔で「明日からの新しいバイトくん、よろしく頼むね」と言った。
「はい。明さん、一緒に働けて嬉しかったです。これからもよろしくお願いします。」と私は素直な気持ちで深々と一礼した。
*
Tesoroの駐車場まで、先生と私は並んで歩く。
「明日からお互い仕事だし、ちょっとだけドライブして送っていくね」
「来てくれて嬉しかったです。送ってもらえるのもラッキー」
そんな会話をしていると、チョンと手と手が触れて、どちらともなく手を繋いだ。
顔を見合わせて、微笑み合う。
ただそれだけのことが嬉しくて、心がむずがゆい。
中学の頃の私は、まさかこんな日が来るなんて夢にも思っていなかっただろう。タイムスリップができたなら、こっそりと耳打ちしてあげたいな…なんて思ってしまう程に、私は浮かれている。
私は助手席に乗り込んで、先生の運転する横顔を堂々と眺める。
「あんまり見つめないでって…」
先生はそう言って眼鏡をカチャリと触った。
あぁ、前もやっていたな…
先生は照れると眼鏡を触る癖があるのかも…
新しい発見をして、なんだか嬉しくなった。
そういえば杏ちゃんも、ずり落ちる眼鏡よく直していたっけ…
もう一カ月もしたら杏ちゃんの10回目の命日がやってくる…
あれから、10年か…
思い出は不意に私の脳を巡る―――
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