182人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
拓士は仕事の覚えが早くて助かる。昨日今日で、拓士狙いの大学の女子学生の客が急に増えたと雅人さんが言っている。
甘いルックスに人懐っこい性格で、来るもの拒まず。ハッキリ言ってチャラい。
でも、意外に真面目で努力の人でもあることを知っているので、憎めないやつだ。
「紗雪先輩、次の月曜って夜あいてませんか?大学のバレーのサークルで、セッターが怪我しちゃって、中央体育館で19時から21時なんですけどー…」
土曜日、Tesoroに出勤すると、顔を合わすなりカトラリーを磨いていた拓士から声がかかった。
「えー…何いきなり…私ダブルワークなのにそんな元気ないよー…それに、もう高校卒業以来ボール触ってないんだけど…」と私が断ろうととすると、間髪入れずに「大丈夫ですって、みんなそこまでレベル高くないし。それに…貸しありましたよねぇ?」とズルい顔で笑った。
うわー…やっぱり、そう来るのか…
「えー…ズルいなぁ…わかったよ…」
渋々、了承するしかなくなってそう返事をすると「やったー」と拓士は無邪気に喜ぶ。
「ハイハイ、じゃあ、私トイレ掃除やっとくから、モップ頼んだよ」と、拓士をたしなめていると「紗雪、ちょっと裏に来てー」と雅人さんに呼び出された。
「はーい」返事をしてから私は店の裏に向かった。
「紗雪さ、土曜日だけど隔週とか月末の月イチにしたくない?拓士も入ったし、休み欲しいだろ?」とニコニコ笑顔で雅人さんがそう聞いてきた。
願ってもない申し出だった。
先生との時間も欲しいと思っていたので、土曜の午後がフリーになるのは正直嬉しい。
「え、いいの?」
「今までこき使いすぎてたしね…前のバイト辞めてから紗雪には甘えちゃってたし…」
「いえいえ、Tesoroで働くの好きだから…」
「じゃあ、来月あたりから勤務減らす方向で、シフト拓士とも相談して決めよう」
「ありがとう、本当に…」
そんな私たちの話に割り込んで、拓士が「話し込んでいるところ悪いんですけど、店開けていいっすか…」と顔を覗かせた。
「おー、もう時間か…悪い、頼むわ。」と、雅人さんはそう言ってエプロンをつけて「ヨシ」と仕事モードになる。
私は「あー!トイレ掃除…」と、慌ててトイレへ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!