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「紗雪先輩、会計おねがいします」
拓士のレジ打ちは、まだサポートつきで、会計時に呼んでもらうことにしている。
拓士は他にもバイト経験豊富なため、仕事の覚えが早くて、レジ打ちもただ 間違えないか見てるだけで良かった。
もう任せても大丈夫じゃないかな…
後で雅人さんに言ってみよう…
会計が済んでお客様を見送った後、拓士が月曜日のバレーサークルの件でコソコソと話しかけてきた。
「月曜日、俺迎えに行きましょうか?」
「拓士、学生のくせに車持ってるの?いいなー…」
「中古の軽ですけど…紗雪先輩の家ってどこ?」
「いや、自力で行くから迎えはいらない。大丈夫」
これ以上の借りも作りたくないし、簡単に家なんか教えたくないもんね…
相手にその気はないただの後輩でも、必要以上に関わりたくないのが事実。
バレーだって本当は行きたくないのだけれど…
「ケガしないように、ストレッチしとくかなー…」
「そうっすね。若いとはいえ、6年ぶり?ですからね…」
拓士と話しながらも、店内の様子を眺めることは怠らない。
テーブル席から呼び出されて、私は素早く駆けつける。
私がテーブル席を対応しているうちに、気づけばカウンターに先生の姿がなかった。
先生はずっと雅人さんと楽しそうに話していたし、私は拓士に冷やかされるのを嫌って仕事に専念していたので、先生とちっとも話ができなかった。
せっかく来てくれたのになぁ…
先生が帰った後のテーブルを片付けながら、帰る前に声かけてくれたらいいのに…と、ちょっぴりガッカリするが、明日のデートのことを考えて気持ちが上がる。
結局、映画に行くことくらいしか思いつかなかった私って…
今までデートって何していたっけ?
ディーラーめぐったり、車のパーツ見て回ったり…
デートと言うより、連れまわされたと言った方が正しい気がする。
水族館と温泉に行ったのは楽しかったかな…
いつか、先生とも温泉旅行できるかな…
先生の浴衣姿を想像すると、うっかり仕事中だということを忘れて興奮してしまう。
あぁ、早く会いたい…
いつまでもテーブルを拭いている私に、雅人さんが「何やってんの」と呆れ顔をしている。そして「拓士と仲良くしてるから、柊真怒って帰ったんだよ」と悪戯に笑った。
「え、嘘でしょ?」思わず大きな声が出てしまって自分でも驚いた。
「バカ、声でかい…嘘に決まってんだろ…」と、また呆れ顔をされる。
「もう、ビックリするからやめてよ…」と雅人さんを睨む。
雅人さんまで小学生みたいに…
「あまり苛めるなら、明さんに言いつけるから」と、私は頬を膨らました。
雅人さんは急に出てきた名前に驚いて「ダメ」と言って困り顔をする。
「会計お願いします」
拓士に呼ばれる。
「あ、雅人さん行って?拓士もう一人立ちで良さそうだから…」
「了解」
先生が嫉妬?
まさか…
あり得ないと思いながらも、なんだか少し嬉しくなった。
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