後輩のバイトくん

5/5

182人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
 「紗雪先輩、会計おねがいします」  拓士のレジ打ちは、まだサポートつきで、会計時に呼んでもらうことにしている。  拓士は他にもバイト経験豊富なため、仕事の覚えが早くて、レジ打ちもただ 間違えないか見てるだけで良かった。    もう任せても大丈夫じゃないかな…  後で雅人さんに言ってみよう…  会計が済んでお客様を見送った後、拓士が月曜日のバレーサークルの件でコソコソと話しかけてきた。  「月曜日、俺迎えに行きましょうか?」  「拓士、学生のくせに車持ってるの?いいなー…」  「中古の軽ですけど…紗雪先輩の家ってどこ?」  「いや、自力で行くから迎えはいらない。大丈夫」  これ以上の借りも作りたくないし、簡単に家なんか教えたくないもんね…  相手にその気はないただの後輩でも、必要以上に関わりたくないのが事実。 バレーだって本当は行きたくないのだけれど…  「ケガしないように、ストレッチしとくかなー…」  「そうっすね。若いとはいえ、6年ぶり?ですからね…」  拓士と話しながらも、店内の様子を眺めることは怠らない。  テーブル席から呼び出されて、私は素早く駆けつける。  私がテーブル席を対応しているうちに、気づけばカウンターに先生の姿がなかった。  先生はずっと雅人さんと楽しそうに話していたし、私は拓士に冷やかされるのを嫌って仕事に専念していたので、先生とちっとも話ができなかった。  せっかく来てくれたのになぁ…  先生が帰った後のテーブルを片付けながら、帰る前に声かけてくれたらいいのに…と、ちょっぴりガッカリするが、明日のデートのことを考えて気持ちが上がる。  結局、映画に行くことくらいしか思いつかなかった私って…  今までデートって何していたっけ?  ディーラーめぐったり、車のパーツ見て回ったり…  デートと言うより、連れまわされたと言った方が正しい気がする。  水族館と温泉に行ったのは楽しかったかな…  いつか、先生とも温泉旅行できるかな…  先生の浴衣姿を想像すると、うっかり仕事中だということを忘れて興奮してしまう。  あぁ、早く会いたい…  いつまでもテーブルを拭いている私に、雅人さんが「何やってんの」と呆れ顔をしている。そして「拓士と仲良くしてるから、柊真怒って帰ったんだよ」と悪戯に笑った。  「え、嘘でしょ?」思わず大きな声が出てしまって自分でも驚いた。  「バカ、声でかい…嘘に決まってんだろ…」と、また呆れ顔をされる。  「もう、ビックリするからやめてよ…」と雅人さんを睨む。  雅人さんまで小学生みたいに…  「あまり苛めるなら、明さんに言いつけるから」と、私は頬を膨らました。  雅人さんは急に出てきた名前に驚いて「ダメ」と言って困り顔をする。  「会計お願いします」  拓士に呼ばれる。  「あ、雅人さん行って?拓士もう一人立ちで良さそうだから…」  「了解」  先生が嫉妬?  まさか…  あり得ないと思いながらも、なんだか少し嬉しくなった。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

182人が本棚に入れています
本棚に追加