愛しいジェラシー

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愛しいジェラシー

 「紗雪、21時半であがっていいよ」  休憩室で漂白したダスターを干していると、雅人さんから声がかかった。  明日デートだから、ちょっと早く上がれてラッキーと思いながらも「え、いいの?」と条件反射で確認してしまう。  「拓士もレジ一人立ちしたし、ホール任せられるから」と、雅人さんは笑顔で親指を立てた。  「やった!じゃ、お言葉に甘えて…」  私は時間になると、カウンターの食器を片付けている拓士に  「先上がるね。月曜は中央体育館19時ね…ちょっと仕事長引いたら遅れるかもしれない、連絡するわ」と声をかけた。  拓士は「了解っす。お疲れさまでした」と、手を止めて軽く頭を下げた。  挨拶はキッチリするんだよなぁ…  店を出ると、ワイドパンツの裾から冷たい風がヒュルリと中に忍び込む。  5月も半ばに差し掛かるというのに、まだまだ寒くて嫌になる。明日からは 陽気な日が続くという週間予報を見たが、どうせまたその後に寒くなる北海道特有の*リラ冷えというのがやってくる。  (*リラ(ライラック)の咲く頃に一時的に寒くなる現象)  ブルっと身震いしながら、スマホをチェックした。期待した先生からのLINEは来ていなくてガッカリする。  えー…本当に嫉妬して怒っていたりするのかな?  明日のこと、ちゃんと決めてないけど…  電話、しちゃおうっかな…  スマホの履歴の”結城 柊真”を数秒見つめて、タップしてから地下鉄駅に向かって歩きだした。  ダイアル音と同時に背後から着信音が聞こえたかと思うと、直ぐに『はい』と電話口と背後から先生の声がほんの少しのタイムラグで二重に聞こえる。  私は上機嫌で振り返ると、ふわりと先生の上品なサボンの香りに包まれた。  「…どうして?まさか待ってました?」  私は先生の腕の中に収まったまま、先生の顔を見上げた。  「雅人さんが21時半に帰らせるって言ってたから、迎えに来た」と、はにかんで笑う先生が可愛い。  「何も言わずに帰っちゃったから、ちょっと悲しかったですよ…」と、ムッと口を尖らせて、不貞腐れて見せた。  「ゴメン、迎えに来ようと思っていたから…」  「フフフ、来てくれたからいいです。…えっと、どこか入ります?」  先週の出来事が瞬時に思い出されて、私は顔が熱くなった。  お酒はちょっと控えないとな…  結果的に思いが伝わったけど、意識下になく言動してしまうなんて恐怖でしかない。  それに、自分ってあんなに大胆になれるんだ…と、何度思い返しても驚きしかないし、とても恥ずかしい。  そんなことを思いめぐらせていると、先生が「…このまま連れて帰ったらダメ?」と、甘い声で聞いてきた。  ドクンと胸が高鳴る。  「ダメ…じゃ…ないです」  そう言った私の顔は、かなり赤面しているだろう。
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