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》》》on the Takuji side
中学入学の頃、俺は大半の同級生の女子よりも背が低く、年下扱いされて可愛がられる存在だった。
容姿と人懐っこい性格だったせいもあるのだろうが、モテはやされたって、好きな女の子から好かれないとまるで意味がない。
実のところ、俺は中一の時、さゆゆん先輩に一目惚れしていた。
部活動紹介でのバレーボールのユニフォーム姿が可愛く、華奢で綺麗な指に弾かれて弧を描くボールは、他の誰のものよりも静かで、正確で、目を奪われた。
最後に「よろしくお願いします」と言って見せた、はにかんだ笑顔にトドメを刺された。
俺は迷うことなくバレー部に入部した。出来るだけたくさん関わりたくて、利用できるものは利用した。
持ち前の明るさと人懐こさを駆使して、先輩の周りの女子部員たちから攻めていったが、思うような成果はなかった。
そうして、しばらく先輩を追ううちに、先輩には好きな人がいることを知った。
あんなに可愛いのに浮いた話を聞いたことがなくて、不思議に思っていた矢先だった。
たまたま通りがかった社会科教室前で、俺は先輩とすれ違った。
先輩は、少しだけ目を赤くして、切なく苦しそうな、やり場のない想いを抱えているような憂いた表情で、廊下の先にいる遠い背中を眺めていた。それは、恋をしている女の子そのものだった。
俺は、先輩の好きな人が結城先生だということに気づいてしまった。
先生に恋するなんて、馬鹿だな先輩…叶いっこないのに…
そう思ったのと同時に、俺の初恋も散った。
先生を好きになるような人が、俺なんかを好きになんてなるわけがないと思ったから…
*
こんな偶然ってある?
就職先の内定をもらって、即効決めたバイト先に初恋の先輩がいたとか…
もしかしたら、今だったらワンチャンあるかもなんて淡い期待をしたのも束の間、まさかあの結城先生と付き合っているだなんて…
信じられなかった。何がどうしてそうなったのだろう。
でも、それを隠してほしいだなんて、どうしてなのだろう。
俺の言葉に過敏に反応する先輩が可愛くて、ついからかってしまって、なかなか聞けずにいる。
って、俺は小学生か…
別に、元生徒っていっても今はもう成人なんだし、隠す必要ないと思うんだけどな…
バレーサークル、続けて来てくれたらいいのに…と心から思った。
先輩が入って他の奴らも楽しんでいたし、俺も期待以上に楽しかった。
やっぱり、先輩のトスは変わらず静かで、正確で、綺麗だった。
初めて見たあの日のあの高揚感を、俺はまた思い出してしまっていた。
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