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平日のど真ん中、睡眠不足にさせても申し訳ないので、先生との楽しいおしゃべりも程々にして私は床に就くことにした。
「オヤスミ」と、先生は私の額にキスをくれた。
本当は口にしてほしかったけど、隣の部屋に夏帆さんがいるので我慢する。
キスされたら、それ以上を求めてしまいそうだもんね…
先生も同じかな…
寝室のゆったりとしたセミダブルサイズのベッドに、今日は一人。
近くにいるのに、体を寄せて寝られないのがもどかしい。
どんどん欲張りになって、求めてしまう。
触れたい、触れられたい、キスしたい、ギューっと抱きしめあいたい…肌を重ねたい…
ベッドの横の布団では、夏帆さんがスースー寝息を立てて眠っている。
私は先生の香りのする布団に包まれて、先生の幻影を抱いて眠りについた。
*
「行ってくるね…」
スーツ姿の先生が寝ぼけ眼の私の頭を撫でて、頬に唇を寄せた。
「ん…あ!行ってらっしゃい…」私は、慌てて飛び起きた。
時計を見ると7時05分。
先生、いつもこんな時間に出勤なんだ…
先生は微笑んで「まだ寝てていいよ…夏帆さんはトイレに起きてきて、またリビングのソファーで寝てる」と言った。
「いえ、起きます…」と、私はベッドから飛び起きて、先生を玄関まで見送る。
先生は眼鏡を直して「お見送りいいな…頑張れそう」と笑った。
新婚さんみたい…
くすぐったい気持ちで「行ってらっしゃい」と、先生の下ろしかけの手をつかまえて背伸びをして、不意打ちに先生の口にチュっと素早くキスをした。
先生が緩んだ表情で、名残惜しそうに「じゃ…」と手を振って出て行ってしまった。
私は扉が閉まるまで手をふって、名残惜しい気持ちで立ちすくんでいた。
「朝からお熱いですなぁ…」
背後から夏帆さんの声がした。
昨日は我慢したのに、結局見せつけてしまった…
「ヘヘヘ…」と私は頭を掻いた。
「昨日は迷惑かけたね…」と、夏帆さんが謝った。
「大丈夫ですよ。楽しかったし…」
私は彼氏さんのことを聞こうかと思ったが、昨夜の先生の言っていたことを思い出して、詮索しないことにした。
でも、夏帆さんの性格からして自分から話し始めるとは思えなかったので「たまには私にも恩返しさせてください…いつも色々と聞いてもらってるんで」とだけ伝えた。
「あんたたち、本当にお似合いだと思うわ…」
夏帆さんが珍しく満面の笑顔を見せた。
でも、それも一瞬のことで、すぐに真顔で「でも一波乱くるかもな…」と、意味ありげなことを呟いた。
「えっ!何ですか…」
「ううん、それより、先生ってばスパダリ…朝食つくってくれたよ」
キッチンカウンターにミニトマトとレタスが添えられたハムエッグと、オニギリが四つ。
私がそれを見てキュンとしていると、夏帆さんが「私も惚れてしまいそうだわ…」とニタニタ笑った。
「まさか!一波乱ってそれですか?」
「キャハハ!そんなわけ……あー、それも面白いかな?」
私はダメですよー!と、夏帆さんに釘を刺す。
そして、二人ありがたく朝食をいただいた。
まだ先生に俊介の時のお礼もできてないし、何かちゃんとお返ししたいなー…
と、そんなことを考えながら、私は先生が握った塩加減がちょうどいいオニ ギリを幸せな気分で頬張った。
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