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翌日、休みの日の朝だけど、先生に会えると思うと楽しみすぎて早くに目が覚めてしまった。
昨夜も、先生の部屋に持ち込むものを考えて、なかなか寝付けなかったのに…
喜んでもらえるかはわからないけど、時間もあるので作り置きのおかずを数品作ってみる。定番の肉じゃがに、から揚げ、ほうれん草の胡麻和え…
それと一応、お泊りセットを…
上京した息子に会いに行くお母さんみたいに大荷物を抱えて、夕方先生のマンションへと向かった。
ドキドキしながら鍵を開けて「お邪魔しまーす」と、そろりそろりと上がりこむ。
主のいない部屋は、やはりどこか寂しげだ。
リビングのテーブルに出張のお土産のお菓子と、メモがあった。
『紗雪さんへ 来てくれてありがとう。早く帰るように頑張るね。お菓子食べて待っててください。 柊真』
あの頃とちっとも変わらない整った先生の字と”柊真”という文字に、胸がキュンと締め付けられる。
早く会いたいな…
*
気づけば私はソファーで居眠りをしてしまっていた。
昨夜なんぼも寝れなかったせいだろう。
静まり返った部屋は真っ暗で、カチカチと時計が時を刻む音だけが響いていた。
スマホの明かりを頼りに部屋の電気をつけて、時計を見た。
22時。
先生からはLINEが一件、20時半に来ていた。
『もう来てるよね、ちょっと生徒のことでゴタゴタがあって、帰りが遅くなります。来てってわがまま言ったの俺なのにゴメンね。何時になるかわからないから…待たなくていいです…本当にゴメン。』
仕事だもん…
生徒のことだし、仕方ない…
ゴタゴタって、何があったんだろう、大丈夫かな…
私は小さく嘆息した。
明日は私も仕事だし、先生はきっとクタクタで帰ってくるよね…
帰ろう…
私は、メモ紙の隙間に『柊真さん 遅くまでお疲れ様です。体大事にしてくださいね。お口に合うかわかりませんが、おかず冷蔵庫に入ってます。 紗雪』と書いて部屋を後にした。
お泊りのセットは勝手に置いておくわけにもいかなかったので持ち帰ることにする。
頭ではわかっているのに、あまりに落胆が大きくて気持ちのやり場に困る。
私はトボトボと地下鉄まで歩きだした。慣れた道に出るためにTesoroの前の通りに出ると、丁度、常連の面倒くさい二人とばったり遭遇してしまった。
「あれ?さゆりちゃん、久しぶりだね」
「本当、バイト減らしたんだって?会えなくて寂しかったよー…」
踏んだり蹴ったり…こんな時に会いたくなかった…
私は愛想笑いをしてどうにか誤魔化して帰ろうとしたのに、こっちの都合などお構いなしにしつこく話しかけてくる。
悪い人たちじゃないのはわかってるんだけど…
「あれ、紗雪先輩?」
バイト上がりなのか、タイミングよくTesoroから出てきた拓士が救いの神のように見えた。
私は咄嗟に「待ってたよ、拓士…帰ろっかー…じゃあ、後藤さん、斎藤さんまたお店でー…」と、拓士の袖を引っ張って急ぎ足で店の裏へ回った。
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