波乱のヨカン

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 変な空気を断ち切るように、拓士が  「じゃ、立て込んでるようですし、俺はこのまま先輩送っていきます…さ、行きますよ先輩…」と言って動揺している私の手をつかんだ。  私はそのまま拓士に手を引かれて、車に乗せられた。  先生は、それをただ黙って見送るだけで、追いかけて来てはくれなかった。  拓士は車を発進させて、深くため息をついてから何かを話そうと口を開きかけたが、私の顔を見るなりその口を閉じた。  私の目からは、大粒の涙が零れ落ちた。  ここで泣くのはだめ、家まで我慢…  そう思いながらも、涙は溢れて止まらなかった。  拓士はただ黙って、ステレオのボリュームを上げた。 *  翌日、朝早くに先生からLINEが来ていた。  『昨日は俺の我儘で来てもらったのに、おかずもせっかく作って来てくれていたのに一緒に食べれなくて本当に申し訳なかったです… から揚げすごく美味しかった!他のも大事にいただきますね。』  『あの時、俺の家からの帰りだったんだよね?絡まれたって、大丈夫だったのかな…ちゃんと会って話しがしたいんだけど、なかなか時間が取れなくて… また改めて連絡します。』  “ちゃんと会って話したい”の文字にドキリとした。  それは…皐月先生のこと?拓士のこと?  それとも…  私がって呼ばれたこと?  家に帰って気が付いたが、あの時、皐月先生は私のことをさんと呼んだ。  先生は気づいていた?  皐月先生について一つも触れられていない文面。  もし、皐月先生から私のこと聞いていたらどうしよう…  先生に限って、浮気なんて絶対にないのはわかってる…  でも、気持ちが離れたり、動いたりしないなんて保証はどこにもない。  不安と焦燥と嫉妬で押しつぶされそうだ。  あれこれと考え込んでしまって、どう返信したらよいかわからない。  『絡まれたと言っても、後藤さん達だったので大丈夫です… 拓士に送ってもらったことですけど…ちゃんと断らなくてごめんなさい』  悩んだ末の返信だ。  そして直ぐに返信がきた。    『いや、紗雪さんは悪くないってわかってる。だから謝る必要はないよ…… LINEじゃうまく伝えられないし、会った時にちゃんと話をしよう。 出来るだけ早く時間作れるようにします』  確かに先生の言うとおりだ。  だけど、先生の気持ちが全然わからないよ…  怒ってるの?呆れてる?  淡々としたメッセージに、不安ばかりが募る。  声が聞きたい…会いたい…  だけどそう思う一方で、会った時に何を言われるのか、もしかするとこれで 終わってしまうのではないかと、あることないことを想像して打ちひしがれる。  『わかりました。連絡待ってます』  私には、そう返すことしかできなかった。
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