其々のオモイ

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其々のオモイ

 「紗雪先輩…」  合コンの二次会と思われるグループが帰った後のテーブルを片付けていると、拓士が神妙な面持ちで声をかけて来た。  「連絡取れてないって言ってましたけど、先生とちゃんと話せました?」  「ううん、忙しいみたいで…」  「え!まだなんですか?だって、あれから1週間以上経ってるのに…」  結局、先生とはお互いに時間が取れず会うことができずににいた。そしてLINEや電話も、当たり障りのない内容のやり取りしかしていなかった。  「あの時、先生と一緒にいた(ひと)とは…先輩も知り合いなんですか?」  「高校の時の個別指導の担当だった…だから…」  「そっか、だから呼びしたのか」  「うん…バレたと思う?」  「んー…どうかな…」  「それもだけど、何であんな時間に皐月先生と一緒にいたのかっていうのも気になっちゃって…」  「あー…」  先生には早く会いたいという思いはあるのだが、あれから十日近く経っていて、会った時にどんな話になるのかと考えるとコワくてたまらない。  拓士にこんな話するなんてどうかしてるけれど、事情を一番よく知ってる拓士にだからこそ、つい本音が出てしまった。  仕事終わり、拓士と一緒に店を出た。  お決まりのようにスマホをチェックするが、先生からのLINEはなかった。  今日も忙しいのか…  こうも長いこと会うことも、連絡を取ることもままならなくなる程、教師という仕事は突然こんなに忙しくなるものなのか…  私が元生徒だと知ってしまって、嫌になったのかな…  隠したまま付き合っていたことに怒っているのかな…  皐月先生の先生を見るあの目と、先生の腕に触れた手が、頭から離れない。  会えな時間が、私の不安をより一層増幅させる。  「じゃ、お疲れ…」  私は沈んだ気持ちのまま手を振って、拓士に背を向けた。  「先輩…」  すごく近い距離から拓士の声が聞こえて、私は振り返ろうとした瞬間、背後から拓士に抱きしめられて、フワっと甘くて爽やかなシトラスのような香りが私を纏う。  「え、何…ちょっと…」  私は慌ててその腕をつかんで抜け出ようとしたが、拓士はギュッと腕の力を強くして放してくれない。  「俺なら、先輩にそんな顔させない…」  「え?」  「俺、先輩が好きです…」  拓士は小さく消え入りそうな声でそう言った。  それは全く予想だにしていなかったことで、拓士が何を言っているのか私は すぐに理解できなかった。  え??私のことが好き?  何で?そんな素振りなかったじゃん…からかってイジワルばかり…  「ね、ちょっと待って…冗談でしょ…」と、私は拓士の腕をペチペチ叩いた。  拓士はそんなこと気にもとめず、私を無視して話し続けた。  「先輩が先生のこと好きなのはわかってます。でも、俺も…俺のことも意識してください。今すぐどうこうするつもりないので…俺の気持ち知っておいて…」  拓士はそう言うと、パッと私を開放した。  私は振り返って、拓士を見た。  拓士は「強引にすみません」と、自分の耳の裏を掻いて「でも、本気なんで…」と、真っすぐ私を見つめてそう言った。  拓士の告白が冗談じゃないことがわかって、私はどうしていいかわからず「ゴメン…」と一言だけ言い残して、地下鉄駅へと走った。  何?どういうこと?何が起こったの?  私の頭はすでにビジー状態で、情報処理が追い付かない。
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