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「やはり、一波乱きたか…」
翌日の土曜日の朝、顔を合わせるなり夏帆さんが神妙な面持ちで呟いた。
「え?」
「ひどい顔してる…」
「はい…ちょっといろいろありまして…眠れませんでした…」
始業までのニ十分で、夏帆さんに事のあらましを話した。
「最近なんかあったなーとは思ってたけど、そんなことになっているとはね…今日は、受付も会計も私がやるから、裏で雑用だけやってな…」
「え?土曜ですし、さすがにそれは…」
「私を誰だと思ってる?それに、ミスされる方が困るから」
夏帆さんはきっぱりと言い放った。
夏帆さんは、彼氏と喧嘩してもそんな素振りも見せずに淡々と仕事をこなせるのに、どうして私は…
情けなくて不甲斐なくて、涙が滲む。
「一つ一つだよ紗雪…拓士くんのことはまぁ、とりあえず置いおいて…今日こそは先生のところに行きなね。そして、ちゃんと話すの。ちゃんと話せば先生はわかってくれるはずだよ…今までの男より何倍も器のでかい男だろ?紗雪もわかってるでしょ?洗いざらい感情ぶちまけておいで。不安に思っていることも…紗雪の不満も全部だよ?あんたは我慢しすぎなの。自分さえ我慢すれば丸く収まるって思ってるかもしれないけど、そうじゃないからね?」
「…はい」
私の涙をせき止めていたダムは決壊した。
涙は溢れて洪水となった。
そうだ…私、我慢していたんだ…
自分の醜い感情に蓋をして、ひた隠しにして
不安だ不安だと心配ばっかりして、コワがるだけだった…
先生からの連絡ばかり待って、狡かった。
今日は行こう。
先生が朝帰りになったって、帰ってくるまであの部屋で待とう…
そして、全部話そう…
「はい、いいね。じゃ、切り替えよ?」
夏帆さんが、私の心を読んだかのようにニッコリ笑った。
結局、ひどい顔の私は、表の仕事をさせてもらえなくて、点数計算や薬の在庫確認などの雑務を担った。
夏帆さんは、医療事務じゃなくて、メンタルケアとかカウンセリングの分野に進めば良かったんじゃないのかな…
そんなことを考えられるほどに、私の気持ちは少し楽になっていた。
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