大人とコドモ

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大人とコドモ

 一度、家に帰ってお泊りの支度をした。  明日は休み。先生の帰りを何時まででも待つつもりだ。  今日も先生は休日出勤だと言った。  中間テストの作成がまだ終わってないのだとか…  今時期は世間一般の楽しい中高生ライフにおける苦しい時期なのだな…  中間テストという響きに懐かしさを覚えつつ、私は先生にメッセージを送った。  『今日、部屋で待っています。泊まる用意もしていくので何時まででも待っています。』というものだ。  先生の家でオムライスでも作ろうと、家にある材料を持って、足りない分は 途中のスーパーで買い物をして先生のマンションへ向かった。  先生の部屋に着いたのはもうすぐ17時になろうとする頃だった。  メッセージを送って二時間になるが、一向に既読が付かない。  「スマホ見てよぅ!」思わず大きな独り言が漏れる。  とにかく、連絡入れておきたくて電話をかけてみた。  というか、よく二時間も待ったよ自分…  通話履歴の先生の名前をタップして、しばらくプップッとつながる前の音の後、電話口の向こうから  『おかけになった電話は電波の届かない場所におられるか、電源が…』 というお決まりの音声が流れた。  思わず深いため息が出てしまった。  とりあえず帰りを待つしかないのか…  そう諦めて買ってきたものを冷蔵庫にしまっていると  ガチャガチャ…  玄関のドアが開く音とともに「え?紗雪さん…来てる?」という先生の声が聞こえた。  私は固まって、息を呑んだ。  「…紗雪さん?」  先生が勢いよく入って来て、私を見るなり目を細めてふにゃりと笑った。  そして、気づけば私は先生の腕の中に抱きしめられて、大好きな先生の香りに包まれていた。  久々の先生の温もりに、嬉しすぎて涙ぐんでしまう。  「ヤバい…会いに来てくれて嬉しい…」  先生の腕にギュッと少しだけ力が入る。  私も先生の腰に手を回した。  「会いたかった…」  先生に力強く抱きしめられて、私の今までの不安が払拭された。  「私も…」  私たちはしばらくの間、そのまま抱きしめあった。  私は、先生の気持ちが離れたんじゃないことに安堵した。  良かった…  涙が一粒零れ落ちた。  「紗雪さん、ごめん、また出かけないといけないんだ…ケータイの充電切れちゃって、モバイルバッテリー取りに来たんだ……もしかして、連絡くれてた?」  先生は私を抱きしめたまま、申し訳なさそうに口を開いた。  「はい、一応…連絡をと…」  「そうだよね、ゴメン…この間から生徒のことで立て込んでて……あの日も、あのコンビニで生徒のトラブルがあって…それで、また三日前から家に帰ってないって、これから見回りに行かないとなんだ…」  「そうだったんですね…」  それであの日、あのコンビニにいたんだ…  生徒のゴタゴタというのは嘘じゃなかったんだ…  皐月先生といた理由も気になって、そのことを聞こうかと口を開きかけたが、やめておいた。  「今日は泊まれるの?遅くなると思うけど…待っててくれる?」  先生が弱気な声で私にそう尋ねた。  「待ってます…だから、遅くなっても帰って来てくださいね?」  私はまた泣きそうになりながらそう答える。  先生は私を放すと、真っ直ぐに私を見つめてから、そっと頬を撫でて熱いキスをくれた。
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