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20時半、先生はまだ帰らない…
三日も家に帰らない中学生って、何があったのだろう…
そんなことを考えながら使ったフライパンを洗っていると、インターフォンが鳴った。
――――え!お客さん?…出るべき?
私は慌てて、手に着いた洗剤を流し、エプロンで手を拭きながらモニターを見た。
そこには、若くて耳の軟骨部分に3連のピアスをしたやんちゃそうな男の子が写り込んでいた。
――――あ!
私は平静を装って通話ボタンを押したが「ハイ!」と出た声は緊張のために上ずってしまった…
『えっ!?あれ?…ユウキの…あ、いえ、間違えました…』
モニターに映った男の子は、挙動不審になりながらそう言うと、くるりと踵を返してその場から去ろうとモニターに背を向けた。
「あ、待って…」
私は咄嗟に部屋から飛び出した。
エレベーターなんて待ってられない…
非常階段を駆け下りて、エントランスを抜けて、私はマンションの脇にいた男の子の左腕を両手でつかんだ。
「キミ・・・結城先生の…生徒さん?」
と、私は息を荒げながら男の子に尋ねた。
男の子は怪訝そうな顔で私の頭の先から足の先まで視線をやった。
男の子はよく見ると私よりも少しだけ身長の高く、ガッシリとした体格をしていた。
私は少し怯んでしまったが、それでも逃すまいと、腕はつかんだまま離さなかった。
「…あんた誰…ってか、何で裸足?」
そう聞かれて足元を見て我に返った。
靴下は履いているものの、靴を履いていなかった。
「あ…咄嗟に出てきたから…―――あ~!鍵もたないで出ちゃった!」
この子を引き留めたい一心で、私は身一つで飛び出してきてしまっていた。
私が頭を抱えると、男の子はお腹を抱えて笑い出した。
「何、イン・キー?…あんた…バカでしょ?」
「えー…どうしよう…スマホも部屋だー…」
自分でも何をやっているんだと、情けなく思う。
「アッハハハ!救いようねーな」
「本当に…どうしよう…」
私がしょんぼりしていると、男の子は笑うのをやめて
「…仕方ねえな、先生帰ってくるまで居てやるよ」と言ってくれた。
「え…本当?ありがとう、優しい!」
「別に…行くとこないし、暇だし?…それに、あんた面白いし…」
そう言って男の子は悪戯に笑った。
この子が最近、先生の手を煩わせている生徒…?
見た目に反して意外と素直でかわいい子だなと思った。
私たちはマンション脇の植え込みのブロックに二人並んで腰かけた。
「ねぇ、キミ名前は?」
「…リョウタ」
「リョウタ君ね。私は紗雪」
「んー…サユキはさ、先生の彼女なの?…若くね?」
リョウタはそう言って、私の顔を角度を変えてジロジロと見た。
呼び捨てかよ。そして中学生男子、直球だな…
私は苦笑いで「そうね…」と小さく答えた。
すると「まぁ、ユウキだからな…」とリョウタがそっぽ向いて呟いた。
こうやって家を訪ねてくるところを見ると、結城先生のことは慕っているのかも…
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