大人とコドモ

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 「リョウタ君は、結城先生のクラスなの?」  「違う…別…ユウキは学年主任…」  「そっか、結城先生は学年主任なんだ…」  「えー…彼女なのに知らねえのかよ」  先ほどから鋭い直球が投げ込まれる。痛いとこをついてくるな….  リョウタの言う通り、実は先生のことまだまだ知らないことだらけだ…  「知ってることもあるもん!社会科担当で、史学部顧問でしょ?」  私はリョウタに合わせて、しゃべり方を変えて若者ぶってみる。  「そんなの知ってて当然だし…」と、リョウタは苦笑した。  「でもさ、恋人とか家族だからって、その人の全部を知るって難しいよねー…」私は自分の今抱えている問題のことを考えながらポツリとそう言うと、リョウタは黙って、ため息をついた。  何か言いたげな雰囲気を感じて、私は何も言わなかった。下ろしていた足を抱えて座り方を変えて、つま先をぼーっと眺めて、リョウタが何か話すのを待った。  すると、数秒の沈黙の後にリョウタが口を開いた。  「俺が家出くり返してんの知ってる?」  「うん、今も先生が探しに行ってるからね」  「あぁ、ナルホド…それで…」  リョウタは私が裸足で慌てて出てきた理由を理解したようだった。  そして、家出を繰り返している理由を語りだした。  両親からの過度な期待、プレッシャー、否定、決めつけ、教師からの心無い言葉…  リョウタが話したのは、どこにでもありそうな思春期特有の悩みなのだが、聞いている私でもなんだか嫌気がさすような内容だった。  私は、静かにリョウタの言葉に傾聴した。  「中学生って不自由だよねー…大人は理不尽だしねー…イライラしちゃうよねー…」  「マジそれなー…ってか、担任がサユキだったらよかったのに…」  「あはは…頭悪いからムリムリ…」  「俺の担任、まじ最悪。気分ムラが激しすぎてヤバイ…それと決めつけがエグイ…」  「そっか…それはしんどいね」  「でも、ユウキはわかってくれるから…この間のコンビニの時も一緒に来た担任にビシっと言ってくれたし」  「…え?」  突然の話の展開に、一瞬思考が追い付かなかったが、リョウタの言った”コンビニ”に、私の脳裏にあの日の光景が浮かび上がった。  コンビニって、あの日のこと?  まさかリョウタの担任って皐月先生?そういうこと?  教員免許取って中学校の教師になっていたんだ…  「――あぁ、俺この間コンビニで万引き犯だって決めつけられて、店員と喧嘩したんだ…」リョウタが、事の詳細を話し始めた。  「あの日、俺はやってないっていってんのに、担任は俺がやったって決めつけて店に謝れの一点張り。ユウキだけがちゃんと俺の話聞いて、防犯カメラ見せろって取り合ってくれて…結局、別の客が盗ったとこ写ってて…」  「そうだったんだ…大変だったね…」と、私はリョウタの話に聞き入った。  「ユウキが担任に『まず生徒から話を聞くのが教師じゃないんですか。まだ中学生でも、未熟な子供でも、ちゃんと対話して尊重すべきなんじゃないですか。』って、言ってくれて……口調は丁寧だったけど怒ってたね…あれ……日頃優しいと怒ると怖いから、怒らせない方がいいと思うよ…」  「アハハ…気を付けるよ…」  真剣な話から、急に忠告されて返答に困る。  信じてくれる人がいるっていうのは、本当に大事だ…  中学生という大人でも子供でもない曖昧な時期に、ちゃんと一人の人間として尊重してくれるということは、自己肯定感が高まることにつながるし、何よりそんな人との出会いは、今後の人生をも左右するんじゃないかな…  それにしても、そんなこと言われてしまった皐月先生はどんな顔で聞いていたのかな…  でも、さすが先生だ…  リョウタの話を聞いて、先生への”好き”の気持ちがまた大きくなる。
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