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「そもそも、紗雪は寝言で先生って呼んでたし、隠し通せてません…」
「え!?本当ですか?寝言で?…それはどうにもできない…ーーーでも、どうして知ってること黙っていたんですか?」
「それは…紗雪も気づかれたくないみたいだし、俺自身も元生徒って意識したくなかったから…かな……」
先生はそう言って、メガネを直した。
そして少しの間をおいて「…俺の話も聞いてくれる?」と、静かに言った。
私がこくりと頷くと、先生はゆっくりと話し始めた。
「実は俺、紗雪が松岡だって気づいた時、すっごく動揺した。…でも、好きになった気持ちは本当で、気づいた時には遅すぎた。後戻りなんかできなかった。でも、それと同時に、紗雪は中学時代の先生の俺が好きなんだろうなって…それでいつか、憧れだった先生がただの"やきもち焼きなバツイチのおっさん"だって気づいて、冷める日がくるんじゃないかっていう心配が付きまとった。…――それで、不破くんと一緒にいるところ見ると、やっぱり紗雪は若いなって思った。不破くんと並んでいる方が自然かなーって思ったりしたんだ…」
そう言って、先生は寂しそうに笑った。
「そんな…」
私は否定しようと口を開いたが、先生は私の声を遮って話を続けた。
「でも今日来てくれて、紗雪に会ったら、やっぱり手放すのは無理だった。こんなにも骨抜きにされるなんて……」
先生はそう言って、私の髪の毛を梳くように撫でて、私を見つめた。
「私は先生とこんな関係になれるなんて思ってなかったから、付き合えることになって嬉しくて、それと同時にやっぱり元生徒だって隠していることの罪悪感もあって…だけど、一緒にいればいるほど”好き”がどんどん大きくなって……」
私が話している間も、先生は私を見つめるので、恥ずかしくなって視線を逸らしてしまったが、私はまた先生の目を見つめて
「私も、もう後戻りできません…――先生に夢中です…」と言った。
「…うん」と言って、先生は私の頭から頬を撫でて唇を親指でなぞって「紗雪…好きだよ」と私の唇にキスを落とした。
「先生…」
「・・・・」
先生は、はぁ…と大きくため息をついて「不本意だけど、次また先生って呼んだら、俺も松岡って呼ぶから…」と拗ねた。
「え…あ…それは嫌です…」
「じゃあ、名前で呼んでよ」
「……柊真…さん…」
「うん、紗雪」
先生は嬉しそうに目を細めて笑った。
私はその先生の笑顔が愛しくてもう一度「柊真さん…」と呼んだ。
「うん…そう呼ばれるの心地いい…」
先生は、目をトロンとさせてふにゃっと力なく笑った。
「柊真さん眠そう…」
「うん…なんか安心したら眠くなってきた……寝よっか…」
先生は枕を直して、間接照明のスイッチを切った。
外はすでにうっすらと明るくなり始めていた。
「明るい…朝になっちゃったね……」
「長い一日でしたね…オヤスミナサイ…」
「・・・・」
スー…
先生は秒の速さで寝息をたてて眠ってしまった。
連日リョウタに振り回されて疲れてるよね…
疲れているのに…
私はつい先ほどまで先生に抱かれていたことを思い出して恥ずかしくなった。
先生知っていたんだ…
それでも、好きでいてくれたんだ…
それにあんなネガティブなこと考えてたんだ…
拓士から告白されたことは言えなかった。
あの時、咄嗟に逃げちゃったけどちゃんと断らなくちゃ…
私は先生の穏やかな寝顔を眺めながら、改めて幸せを嚙み締めた。
そして、先生の胸に顔を寄せてくっついて眠った。
柊真さん…大好き…
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