元彼のシュンスケ

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元彼のシュンスケ

 結婚式の二次会。貸切ご予約28名様。  アルバイトの鈴木さんと一緒に団体用のテーブル配置にして、グラスやカトラリーを用意する。  鈴木さんは忙しい時だけ手伝ってくれるスーパーおばさ…お姉さま。  普段は主婦で、忙しい時や団体客の予約が入った時に声をかけるとスーパーマンみたいに飛んできてくれる強い味方。すごく都合よくつかわれているのに、文句ひとつ言わないとても頼りになるアルバイトさんだ。そしてすごく仕事ができる。  「大事なセレモニーのお手伝いは、心が躍るね。」なんて鈴木さんと話していると、気づけば予定の時間だ。 パーティー用に着飾った華やかな女性たちや、ビシッとスーツでキメている男性たちがちらほらと集まってくる。私は「いらしゃいませ、お待ちしておりました。」と、入り口前で来客が途切れるまで繰り返して出迎えた。  「紗雪さん、こんばんは。今日はよろしくお願いします。」  突然声をかけられて、お辞儀しかけた頭を起こすと、目の前に先生が立っていた。  白シャツにシルバーのネクタイをしめて、ブラックのスリーピースのスーツをかっこよく着こなしている。前髪はかきあげたようなアップバングで大人の色気が漂う姿だ。  「い、いらっしゃいませ…」  私は予想外のことに動揺して、初めて見るフォーマルな先生の姿に胸が高鳴った。そして、また会えたことが嬉しくて心が弾む。  新郎新婦以外は全員到着し、幹事が何やら挨拶をしている。  私は、先生が来ていることを裏にいる雅人さんに伝えると  「あれ、言ってなかったっけ?大学のサークルの後輩の結婚式だって。柊真より下だから、俺は知らない人。奥さんは紗雪と同い年くらい?若かったはず…」とコソっと教えてくれた。  開始の声がかかったので、段取り通りに飲み物や料理を運ぶ。  店内はガヤガヤ盛り上がり、皆酒のペースがあがる。  新郎新婦も到着して、みんなに幸せそうな笑顔をばらまいている。小柄な新婦は、とっても可愛らしくて私よりも幼く見えた。新郎はそんな新婦にデレデレの様子で、見ていて微笑ましい。  私にはまだまだ程遠い世界だ…  そんなことを思いながら、あくせく働いて、やっと一息ついてカウンターに寄りかかって小休憩していた時「あの…トイレはどこですかー…」と声をかけられた。振り返ると、そこにいたのは元カレの俊介(しゅんすけ)だった。  「あれ、紗雪?」  「俊介?なんで…」  「新婦が同僚…」  「そうなんだ…」  俊介とは、専門学校時代に合コンで知り合った車のディーラーの営業マンで、私の一つ年上だ。  さすがは営業マンで、口が上手く、話が面白かった。若干口先だけなところがあって、すぐに機嫌が悪くなるところは面倒だったが、こちらが下手に出ていれば、丸く治るのでそうしていた。  そんな付き合いも二年間ほど続いたのだが、ある時、俊介が浮気しているところを目撃してしまって、別れることとなった。  ちょうど一年前のことだ。
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