水族館とオモイデ

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 ランチのためにインターから下りて、先生が事前に調べてくれていた店へと向かった。  店に着くと、5組ほど入り口から外に並んでいるのが見えた。  「もうあんなに並んでる…待つけどいい?」と先生は私に尋ねた。まだ正午にもなっていないので、私の腹の虫はまだ鳴りそうにない。  「人気なんですね…大丈夫です。待ちましょう」と、返事をした。  先生と並んで待つというのも新鮮で、悪くないなと思った。それに、並んでいる間は手を繋ぎたいなー…とも。  車から降りて足取り軽やかに先生の隣へ行くと、先生はごく自然に私の手をとってくれた。そして、するりと私の指の間に先生の指が滑り込んできて、あっという間に恋人繋ぎになる。それがあまりにスムーズだったので、"手を繋ぎたい"と意気込んでいた私は拍子抜けしてしまって、先生の顔をまじまじと見る。  先生は何でもないような顔で、どうかしたの?とでも言いたげに優しく見つめ返してくれる。  私は嬉しくてつい口元が緩んだ。  ニヤケ顔バレてないといいのだけど…  待ち時間の間は、行ったことのある温泉の話だったり、家族旅行の話なんかをした。そして、20分程経った頃に席に案内されて、二人揃って海鮮丼を頼んだ。  新鮮な海産物は、どれも透き通っていてキラキラとしている。マグロ、サーモン、エビ、イカ、ホタテ、タイ、それにイクラ…食レポで有名なタレントが言うように、まさに"海の宝石箱"のようだ。    「美味しい」  一口食べて、お互いに顔を見合わせて笑みがこぼれた。  「かなりボリュームありましたね?私、ハーフサイズだったのに、お腹いっぱい…」  「俺もキツイ…」    そう言って、私たちは自分のお腹をさすって苦笑いした。  先生は目的地に向けてまた車を走らせる。  車窓からはのどかな景色が続き、高い建物がないので空が広く、遠い。  そして30分ほど国道を走っていると、観覧車と古城のような建物が現れた。ここが目的の水族館だ。  中世ヨーロッパの実在するお城をモデルにしたと、先ほど見たホームページに書いてあった。  一度見たら忘れられないインパクトがあるこの水族館に、私は小学生の低学年の頃くらいに両親に連れてきてもらったことがあった気がするな…とぼんやり思い出す。でも、中がどうだったのかはもうすっかり忘れてしまっているので、楽しみで仕方がない。  「ペンギンとクラゲが見たいです!」  「うん、イルカショーも見たいよね…トンネルの水槽も見応えあるし…」  「あ!それと…観覧車も乗りたいなー…」  「…そうだね」  駐車場に誘導されるのを待つ間、私は子供のようにはしゃいだ。    「紗雪がそんなにはしゃいでるところ、初めて見たな…」と、先生は私の顔をチラリと見てクスっと笑った。  少しはしゃぎすぎたかな…  「うるさいです?」と、先生の顔を窺う。  「ううん、見たことない一面見れて嬉しい」  先生は目を細めて優しく笑い、私はエヘヘと、照れ笑いをした。
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