水族館とオモイデ

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 ーーープップッ  突然のクラクションの音に私たちは驚いて前を見ると、順番待ちでつまっていた前の車がとうに進んでしまっていた。クラクションは後ろの車からだった。  「ヤベッ…進んでた!ゴメーン…」  と、先生はケラケラ笑って車を発進させ、誘導係の指示通りに駐車した。  海からほど近い場所のため、車から降りると潮の香りが風に乗って鼻をかすめる。そして、甲高いカモメの鳴き声が遠くから聞こえてきた。  目の前にはお城、隣には大好きな人。  非日常を感じて、心が浮き立つ。    私たちは、それぞれのショーの時間を確認して、順番に見て回った。イワシの魚群をライトアップしたパフォーマンスや金魚の万華鏡、クラゲラボは、光と音の演出が幻想的で、時間が経つのを忘れてしまうほどいつまでも見ていられた。  「クラゲって、見てて飽きないですよねー…」  「なんか癒されるね…」  そんな話をしながらまったりと見てまわり、アクアトンネルにさしかかる。そしてその薄暗いトンネルを通ると、まるで水の底にいるような感覚に襲われた。  私は何故だか急に怖くなって、寒気に襲われる。そしてそんな時、大きなサメが口を開けて鋭い歯をギラつかせて近づいてきて、私たちの頭上を通り抜けた。  「イヤッ」  私は身がすくみ、先生にしがみつく。  「紗雪?こわい?」    私は強く目を瞑り、首を縦に振った。  先生は私の肩を抱き寄せて、反対の手で目を覆った。そして「大丈夫。このまま、ゆっくり抜けるよ」と私を安心させるように声をかけながら出口へ導いてくれた。  私は塞がれた真っ暗な世界で、先生の胸から伝う心音と、先生の声だけに集中した。そして、ふわりと香る大好きなサボンの香りで落ち着きを取り戻す。  「私、前世でサメに食べられたのかな?」  アクアトンネルを抜けて、メインのお城から屋外へと出た。そして、イルカプールへと向かう途中で先生に心配かけないように(おど)けてみる。  「あんなにはしゃいでいたのに、急に真っ青な顔で震え出すからビックリしたよ…もう平気?」  「もう平気です…」  「サメが苦手なら先に教えてくれれば良かったのに…」  「いえ…サメもですけど、あのトンネルの水槽がダメなのかも。なんか本当に海底にいるみたいでドキドキして、息苦しくて急に怖くなっちゃって…私もさっき知ったんですけど…」  「なるほどね…」  「でももう大丈夫なんで、気を取り直してイルカショー行きましょー!」  「えー…本当、大丈夫?」    心配する先生に、私は「大丈夫」とピースサインを見せる。  先生はフフっと笑って、私の頭にポンと手を置いた。    イルカショーの時間が近づいているため、各場所からイルカプールに向かう人たちは皆楽しげだ。青空の下に出たことと、先生が傍に居てくれたことで、私はすぐに落ち着きを取り戻すことができた。  私たちはまた、どちらともなく手を繋いで、イルカプールのある館内へ入った。    
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