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「イルカショー好きなんだよねー…」
躍動感あふれるイルカショーに、童心に帰って喜ぶ先生の姿がとても新鮮で、私はイルカショーよりも先生を見ている方が楽しかった。
イルカが水面からジャンプして、水飛沫をあげる度に目をキラキラと輝かせて、ニコニコ笑顔を見せたと思えば、驚きの表情を浮かべる。そしてまた喜びの表情で拍手をする。
私はイルカショーを楽しみつつ、先生のコロコロ変わる表情を盗み見ては、ニヤニヤと口元が緩むのを感じた。
「イルカショー見たらばーちゃん思い出した…」
ショーの後、園内の隅にあるベンチに並んで座り、お茶を飲みながら先生はポツリと言った。
「小学校低学年の時くらいかな…夏休みにどっか連れて行って欲しいってワガママ言ったら、ばーちゃんが水族館に連れて行ってくれてねー…」
そう言って、先生は寂しげな笑顔を見せた。
先生の子供の頃の話はほとんど聞いたことがなかったけれど、先生が中学生の時におばーちゃんが亡くなったと話していたことを思い出した。
先生は母子家庭で、物心ついた時から、お母さんとおばあちゃんとの三人暮らしだったという。そして、お母さんはいつも仕事で忙しく、おばあちゃんに育てられたようなものだと話してくれた。
「いい思い出なんですね…」
「うん、ばーちゃんの笑顔思い出す…楽しい思い出」
「おばあちゃんも、柊真さんと見たイルカショーとっても楽しかっただろうな…柊真さんが目を輝かせて喜ぶ姿が見れて、連れてきて良かったって思っていたと思います…」
「そうかな…そうだといいな…」
「絶対そうですよ!今も、すっごい嬉しそうな顔で見てましたし…」
「えー…そんなに?」
「ええ、すごく」
私たちはクスクス笑う。
「幼い柊真さん可愛いだろうなー…会いたいなー…」
私が何気なくそう言うと、先生は軽い調子で「じゃあ、近いうちに実家行こうか…アルバム実家なんだ。それに親に紗雪のこと話したら、会いたいって言ってて…ちゃんと紹介したいし」と言った。
「え!」
私はそんな返答が来ることを意図して言ったつもりはなかったので、一瞬戸惑ってしまう。でも、先生が"親に話したら"と言ったことに、胸が熱くなる。
先生は私のこと親に話してくれていたんだ…
それに、紹介したいだなんて…
そんなことを考えて喜んでいたら、先生は続け様に「紗雪のご両親にも、そのうち挨拶させて欲しいな…」などと言い出す。
親に挨拶…
先生にそんな風に言ってもらえて、私との付き合いが真剣なものだということが実感できてとても嬉しかった。でも、実のところ、私は交際相手がいることを親にまだ伝えられていなかったりする。
私の母は、第二の人生を謳歌すると言って去年から単身放浪の旅に出ている。数ヶ月ごとに各地を転々として、生活費は、住み込みの仕事なんかをして稼いでいるのだとか…
先月、杏ちゃんが亡くなってから10年目の法要で帰ってきていたけど、またすぐに旅立ってしまった。
父は市内にいるのだが、互いに忙しく、あまり会えていない。月に一度くらい"元気でやっているか"の電話が来るくらいだ。
「そうですね…あの実は…」と、先生に家の事情を説明して、連絡しておくと伝えた。
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