4人が本棚に入れています
本棚に追加
一日目
俺はエビだ。
だが、ただのエビじゃねえ。
高級食材の『イセエビ』だ。
何故、俺が『イセエビ』だと分かるかって?
そんなの知らねえよ。
お前ら人間だって、生まれた時から『吾輩は人間である』
だなんて思ってないだろ?
どっかのタイミングで『吾輩は人間である』って認識したはずだ。
それと同じだよ。多分な。
俺は今、『水槽』の中にいる。
水槽だからと言って、俺は誰かに飼われてるのでもねえし、水族館にいる訳でもねえ。
じゃあ何だと思う?
正解は『生け簀』だ。
つまり俺は、いつかは人間に食べられる運命って訳だ。
それが分かった理由は簡単だ。
この水槽のそばに別の部屋があって、そこから時々全身真っ白な格好をした男が出てくる。
すると、その全身真っ白な格好をした男が、仲間(と言っても仲間意識はねえ。ただ同じイセエビってだけだ)をむんずと掴んで行くと、その後には殺人事件・・もとい、殺エビ事件に巻き込まれた仲間が皿に盛られて出てくるのを目撃したからだ。
皿の上の仲間はまだピクピク動いていた。
最初にあれを見た時は衝撃だった・・。
今は慣れたよ。多分な。
一番最初にあれを見たのはいつの事だったか・・。
俺は昨日まで時間の概念なんて知らなかったんでな。
俺が何日前からここにいるかも分からねぇんだ。
だって、海の中にゃ光なんて入って来ねえし。
じゃあ、何故時間の概念が分かったかって言うと、
今いる水槽から外の景色が見えるんだが、外が明るい時と暗い時に一度ずつ、
人間が大勢やって来るタイミングがあるんだ。
大体そのタイミングで俺も腹が減る。
人間達も腹が減るタイミングでここに来るのだとすると、
明るい時と暗い時、人間がやって来るのを一度ずつ体験すれば
一日が終わるんじゃねえか。多分な。
さらに、今までの事を思い返してみると
仲間が連れていかれたのは毎回外が暗い時。
なら、明るい時は何も気にせず
暗い時にだけ注意していれば良いんじゃねえか。多分な。
で、今はその『暗い時』な訳で
俺はこんな事を考えつつも、さっきから注意しながら生きてるって訳だ。
まあ、そんなこんなで俺は人生・・
もとい、エビ生を諦めていた。
俺だって、今まで小さい動物をたくさん食って来たんだから
俺が誰かに食われる事もあるさ。
それが、『食物連鎖』って奴だ。多分な。
けどよ。
どうやらそう悲観しなくても良いような気がしてきたんだよな。
その理由を今から説明するぜ。
最初のコメントを投稿しよう!