二日目

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二日目

って話してる内に外が明るくなっちまったぜ。 人間がぞろぞろとやってきやがる。 そう悲観しなくても良いって分かったおかげかな? つい饒舌になっちまって、あっという間に時間が過ぎちまったぜ。 さて・・と。 現状を『そう悲観しなくても良い』事の理由を説明しようと思ったが、 それを話す前に少し別の事を話すか。 その方が本題が話しやすくなるからな。 全く・・。 今は安全な時間だと思うと、つい饒舌になるぜ・・。 って、さっきまでも饒舌だったっけ・・。 まあ気にするな。 俺が今いる所は生け簀と言う名の水槽なのだが、 幅90センチ、奥行45センチ、高さ45センチくらいのやや大きい水槽だ。 で、ここには俺以外にも生物がいる。 イセエビは今は俺しかいないが、基本は2匹で時々3匹。 アワビが2匹。 サザエが10匹ぐらいいる。 サザエだからと言って決して陽気では無いし、 『サザエでございま~す』って挨拶もしねえから要注意だ。 俺達はある商品が注文された瞬間、調理場に連れていかれる。 『イセエビのお造り』、『アワビのお造り』、 『サザエのお造り』、『サザエのつぼ焼き』の4つだ。 俺達イセエビやアワビは、高級食材で高いからあまり注文されない。 だからここにいる数が少ない訳だが、サザエはそうはいかない。 俺が確認した限りじゃ、3回に1回は注文されているな。 さらに、イセエビやアワビは注文されたら一匹ずつしか連れていかれないが、 サザエだけはどちらを頼まれても二匹連れていかれる。 だからサザエだけは多いんだ。 サザエ達には同情するぜ。 アワビやサザエは、自分達が食べられるのを知ってるかって? 知らない奴が大半だと思うぜ。 ここに連れてこられた時、喜んでる奴もいたからな。 けど、そう言う奴をしらけた目で見てる奴もいるから、知ってる奴は知ってるだろうよ。 よし。 じゃあ本題に戻ろうか。 と言っても大した事じゃ無いんだな。 実はな。 注文を受けて俺達を捕まえに来る全身真っ白な男なんだが、 どうも面倒くさがりみたいでな。 調理場に近い方の奴しか取りに来ねえんだ。 俺はふとした事で『まさか・・?』と思った。 で、それ以来ずっと調理場から一番遠い所に陣取ってるんだ。 するとどうだ? 案の定、その前もそのまた前もそうだったように、 今回連れていかれた奴も同じように近い方の奴が連れていかれた。 俺よりも新米だったのにも関わらず・・だ。 普通なら古い奴を調理するだろ?鮮度的にもよ。 それで俺は確信した。 イセエビが二匹以上いる場合、 俺は絶対に安全であると! けど、ここは不思議な所で、すぐに少ない材料を調達しようとしねえんだ。 だから、もし俺もいなくなったら 2~3日イセエビがいないなんて事もザラにあると思うぜ。 ってな訳で、今はイセエビは俺一匹しかいない訳だから 少しヒヤヒヤしてるって訳だ。 あ~・・。早く新しい奴入って来ねえかなぁ? 結局、今日も新入りが来る事無く暗くなってしまった。 またヒヤヒヤしながら過ごすしかねえか・・。 ん・・? 今日は見た事ねえ奴が三人いるな。 『水槽の中』にじゃなくて、人間の方にな。 どうやら新人みてえだ。 一人は妙にオドオドしてやがる。 動きがおもしれえから飽きねえや。 新人はどの業界も大変だ。 まあ頑張れよ。 イセエビを注文されねえようにな。
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