四日目

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四日目

ここに来て良い事なんて何も無い。 と思っていたがそうでも無い。 人間の話し声を聞いて、少しずつ人間の言葉を覚えたからな。 例えば今まで俺が言ってた『明るい時』ってのが『朝』 『暗い時』ってのが『夜』 その間が『昼』だと分かった。 何で人間の言葉が分かるかって? 仕様だよ仕様。 って言うのは嘘だ。 小耳に挟んだ所によると、 動物の中には、他の動物の言葉が分かる奴もいるって聞いた。 それと同じだよ。多分な。 まあ、人間には俺達の言葉は分かりようが無いがね。 昨日のサザエの焼死体(つぼ焼き)を見てから、 水槽内の動物達が明らかにあせっているのが分かる。 アワビの一匹なんか、水槽の横にしがみついていて動かない。 人間が来た時に連れていかれないようにするためだろう。 普通なら『無意味だ』と言う所だが、ここでは案外意味があるかも知れん。 何せ、連れていく奴が面倒くさがりなんでな。 必死にしがみついていれば、その内連れて行くのを諦めるかも知れんし。 で、下にいるアワビに標的が移る・・って訳だ。 朝と昼が終わり、夜が来た。 そして、今日も白衣の人間がやって来た。 連れていかれたのは・・イセエビだった! やはり俺の睨んだ通りだ。 調理場から近い方にいる奴(新入り)が連れていかれたからな。 新入りは諦めきった表情で、何の抵抗もしなかった。 俺は心の中で『あばよ。達者でな』と言ってやった。 水槽の横にしがみついていたアワビは自分で無くてホッとしたのか、 水槽の横から落っこちてやがった。 流石にずっとしがみついてるのは無謀だぜ? せめて、注文が来る時だけにしとけよ。 そして、調理されたイセエビが出てきた。 俺達はその姿を黙って見ていた。 きっと皆、死への恐怖で頭の中が一杯だろう。 そう考えると、先に逝った奴の方が幸せなのかも知れんな・・。
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