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八日目
なんてこった・・。
まだまだ安心すべきじゃ無かった。
今日、サザエが同時に二品(つぼ焼きとお造り)が注文された。
その時、白衣の男が調理場のそばの方から四匹連れて行った。
流石にそれを見て、新入りは何かに気付いたようだった。
何せ、自分と同タイミングで追加されたサザエが二匹共連れていかれたのだからな。
昨日は友人の死の事で頭が一杯だった。
だから何も考えられなかった。
が、一日経って冷静になれたとしても何ら不思議じゃない。
誰だよ!?
サザエを二品も頼む奴は?!
贅沢すぎるんだよ!!
俺が新入りの方をさりげなく横目で見ていると
新入りがこちらを向いたので、俺は慌ててソッポを向いた。
「おい」
新入りが話しかけて来た。
俺は気付かないフリを装った。
「聞こえねえのか?!おいババア!!」
ブチッ!!
俺の頭の中で嫌な音がした。
「だぁ~れがババアだゴルァ!!!お姉様だろがこのクソガキャア!!!!」
久々にブチ切れた。
あ~スッキリした。
たまには大声で叫ばないとな。
「あ・・あああ・・」
新入りが固まってしまった。
いい気味だぜ。
「おおおおお姉さま・・。おおおお聞きしたい事があああありまして・・」
「何だ?言ってみろ?俺が許す」
「なななな何で、イイイイイセエビもサザエも、ああああ新しく入って来た奴が先に連れていかれたんですか?」
「うっ・・」
今度は俺が固まる番だった。
痛い所を突かれたからだ。
自分の言った事に自信を持ったのか、新入りはもうビクビクしなかった。
「オメェ、何か知ってるな?教えろよ」
「さあね。俺は何も知らねえ」
もはや刑事と容疑者の関係になっている。
何でそんな事知ってるかって?
テレビで観たんだよ。
「このヤロウ・・。ん?」
新入りはさらに何かに気付いたようだ。
俺は唾を呑み込んだ。
「そうか・・。そう言う事だったのか」
「な・・何だ?」
「オメェ、俺がここに来た時から全く動いてねえよな?って事は、『場所』だな?その場所が重要なんだろ?なあ?」
「うっ!!」
「へっへっへ・・。その反応は図星だな?」
くっそ~・・。
俺は嘘は吐けない体質なんだよ・・。
「その場所、俺によこせェーーー!!!!」
新入りが勢いよく向かってきた。
俺は貝みたいに丸くなった。
絶対にここを譲る訳には行かねえ!!
絶対に譲れない場所が、ここにある!!
「どけェ!!!!」
新入りがハサミで攻撃してきた。
かなりの攻撃力だ。
体中が痛む。
正直、力じゃとても敵わない相手だ。
ディ――――フェンス!!!!
ディ――――フェンス!!!!
俺は某アニメをイメージした。
何でそんな事知ってるかって?
だから、テレビで観たんだよ。
「こうなりゃ・・」
新入りが俺の体に乗っかって来た。
「うわっ!!何すんだこのセクハラ野郎!!」
「バ・・バカ!!誰がそんな事考えるか!!!」
そんな事は知っている。
だが、少しでもコイツの気を反らそうと考えたんだ。
本音を言うと、一番隅にエビが二匹並べる余裕はあるので、
この位置を死守する必要はねえんだ。
ただ、縦に二匹並んだ場合、どちらが連れていかれるか俺にも分からない。
なので、そこは運を天に任せるしか無かったのだが・・。
と言う訳で、新入りが乗っかって来なければ素直に譲ろうかとも考えた。
けど、新入りが乗っかって来たので、
『今の内にイセエビが注文されたら、確実に上の奴が連れていかれる』ため、
俺は敢えてこの場所を死守する事にした。
某アニメで、『リバウンドはディフェンス側が圧倒的に有利』だと言われているように、この状況は圧倒的に俺が有利だ。
何せ、俺の方が良い位置を確保しているのだから。
どんな知識が役に立つか分からんものだ。
再流行してくれて助かったぜ。
今回俺は、初めて『イセエビを注文される事』を願った。
神様!
仏様!!
新人様~!!!!
また祈りが通じたようだ。
急に背中が軽くなった。
上を見ると、新入りが白衣の男に連れていかれる所だった。
新入りと目が合った。
新入りは悲しい目で俺を見つめていた。
こう言う時は恐ろしい形相で睨んでくれよ。
でないと嫌な気分になるじゃねえか。
とは思った物の、新入りが調理されて出て来た時、
俺はざま~みろって気持ちになった。
俺に暴力を振るったりしたからこんな事になるんだ。
来世ではメスに優しくしろよな!!
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