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第五章
女主人であるばあや様は、心より感嘆した声を出し満足げに微笑みます。
「素晴らしい鮮度の良い物ばかりですわね」
ひとつひとつ丁寧に指先で摘まむと確認し、幾枚かの小皿と、小さな分銅が可愛らしい極小型の天秤を戸棚より用意しました
「お造りするには簡単なルールがございます」
「というと?」
「ザックリ云えば入れ方として、三段階の手順を踏むのです
最初にまず原型そのままの形~ホールタイプの物……!
クミンシード等、油に香りを移すものをご用意下さい
香味野菜のニンニクも焦げやすいので、まず最初に少量、タップリの油でカリリとさせたら焦げる前に取り除きます
同じ油で分量相応スパイスをジックリと炒め、スパイシーな香りを強く引き出すのがコツです
ニンニクはお強いのでお子様には避けた方が宜しいでしょう
体質的にもお嫌いでしたら無くても別に構いません
次に
代表的な乾燥粉末にした香辛料類を、お好みの食材と共に追加し煮込みます
火を止める寸前にガラムマサラを一振り、ササッと熱を加えいよいよ完成となります」
「ガラムマサラとは?」
「幾種類ものスパイスを調合致しました万能調味料のアダナです
各家庭それぞれ
門外不出の『秘伝』隠し味、特別なスパイスですね
最終的な味が決定致します元なのです
ですので~
お姫様の仰りました『お味』は、きっと私の普段使いのスパイス配合でおよろしいかと?」
「そんな貴重な秘伝を!?」
「ええ
ですがわたくしにも交換条件とまでは申しませんが、個人的なお願いがございましてよ?」
「それはどんな?」
ファハドは思わずドキッとし唾を飲み込みました
しかしどんな突拍子もない奇天烈な願い事も、愛する人の命を救う為ならば
〜全力でお引き受けし、叶えんと心よりお思いになられたのです
するとばあや様は照れくさげに、こう言いました
「実はーーー
お懐かしい貴方の御国の藩王妃様~
大切に手塩に掛けてお育て致しました我が姫様の近況
掌中の珠であられるお嬢様の健やかな成長を是非に聞きとうございます
勿論、お話し出来る範囲で構いませぬ故」
ファハドはニコッと微笑みました
「では今宵、随分と長い時間起きていなくてはなりませんね!」
「温かな、とっておきのバター茶をご用意致しましょう
それとも挽き立てスパイス入りの芳醇なミルクティ~
チャイがおよろしいかしらね?
カルダモン、シナモン、クローブ、ブラックペッパー、ジンジャー
たっぷりのシュガーを入れ煮出す甘くお疲れが取れるお紅茶ですよ?」
「それはもう、どちらも味わいたいですね」
二人とも無事交渉成立です
お互いに決して損をせず、望みの物を手に入れることが出来ました
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