第二章

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「海の国」は遠浅の湾内の泥に木杭を大量に打ち込み、人々のたゆまぬ創意工夫にて造られた海洋国家です。 喫水線の深い船では船底が砂と泥にめり込み座礁してしまう為〜 入国は客達目当てで迎えにやって来た、形状はどちらかといえば平べったいゴンドラにおっかなびっくり乗り移るのです。 朗々と心地よい舟歌を聴きながら、ファハドは故郷に残して来た、重い病の床にある恋人を思い、ついシンミリしてしまいます。 船頭の巧みなオール捌きで危なげなく、浅瀬に海流渦巻く怖い難所を越えると 朝霧がゆっくりと晴れ、次第に接近するに従い美しい海の国の表玄関の全貌が見えてきました。 ぱぁっと早起きのカモメたちが一斉に、白い花吹雪の様に飛び立つ様 チカリと高い尖塔 窓ガラスに太陽の光を弾き、えも言えぬ幻想的な情景を次第に目の前に披露し始めます。 言葉も無い程、荘厳でただ美しい光景でした。 『元気になった姫と必ず訪れよう』 この美しい光景を必ず絶対に二人で見るのだ ーーーーギュッと拳を握りしめ、強く心に誓ったファハドでした。 海の国境を越える少し前〜 一番身体の小さなクリスタル号の、足に結わえた金属製伝令管に手紙をしたためて丁寧に挿入しました。 末尾に「愛しているよ」 さり気なく、だが心を込めて一筆付け加えます。 「確かに高速で飛ぶことが得意、身軽なこの子でしたらば まだここからなら、体力にも決して無理が無いでしょう」 「ああそうだ」 準備万端の先鋒一番槍、命運を託されし鳩クリスタル号 心の優しいファハドと賢き侍従が見守る中 ブンッと馴れない海風に煽られながらも、勇ましく強く翼を広げ果敢に飛び立ちました。 鳩はクルリと一周〜 強風せめぎ合う上空を旋回した後、真っ直ぐに高く高く故郷目指し飛んで行きました。
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