やっと

3/3
前へ
/10ページ
次へ
「大丈夫?」  圧迫されていたものから解放された。  どうやら圧迫は抱き寄せられていたみたいで、認識したとたんに頬に体温が集中する。 「あ、あああああ、あのっっ」 「あ、ごめん。いきなり触れてビックリしたよね。でもキミ、ぼぉっとして今にも車に轢かれそうだったから」 「え、えぇ!?ごめんなさい!気がつかなくて」  まさかそんな状態とは思わず。危険な状態だったことに狼狽える。  ……ううん。それだけじゃない。  胸の鼓動が収まらない。  危険な目にあったから?  いきなり免疫ないところに抱き寄せられたから?  どれももっともっぽいけど、それだけじゃない。  だって、胸の奥から溢れてくる気持ちがある。  逢いたかった。  ずっと探してた。  ずっとずっと待っていた。  あなたに逢えるこの時を。 「……大丈夫?」 「え?」 「どこか、ぶつけたかな?」 「あ、いえ。どこも」  そう答えながら、彼がなんでそんな質問をしたか気づいた。  ぽたぽた、ぽたぽた。  涙が溢れてとまらないからだ。 「あ、あれ。なんでかな」  掌でごしごしと、涙をぬぐう。  それでも次から次へと、涙は止まらない。  まるで今までせき止められていたものが解放されたかのように。どこまでもあふれ出してくる。 「はい、使って」  彼がそっとハンカチをさしだしてくれた。  言葉に甘えて、そのハンカチを受け取ろうとした時、彼の手に触れた。  やっぱり。  この想いは。間違いない。  私は。  この人に逢うために、今、ここにいるんだ。 「やっと……やっと、逢えた」  彼に借りたハンカチで涙を拭いながら、私は彼に微笑んだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加