9/9
前へ
/9ページ
次へ
「……だって、だってえ! なんで、鉱くんと上手くいってないのよお!」 「……あ、え? えっ! そ、そっち」  私は目を見開いて瑞穂を見た。 「当たり前でしょ。私が居なくなったら2人はすぐ、まとまるかと思ってたのに……ちっともなんだもん」  アハ、アハハ。と気が抜けたような笑いが口から出た。 「じゃ、じゃあ、怒ってない?」 「……怒ってないよ。なあちゃん。私も言えなくて……ごめんね。大嫌いなんて言って、私の方こそ」  目の前の瑞穂も少し寂しそうに笑った。 「瑞穂、ありがとう……それから、結婚おめでとう!」 「ありがとう!」  瑞穂は……もう悲しそうな笑顔じゃない、格別な笑顔を私に見せてくれた。  それにしても、瑞穂は変わった。  とても良い方に、強くなった。素敵だ。私も、私もそうなりたい。 「瑞穂、綺麗になったし、すごくたくましくなった」 「ええ! やだ? 私、太った?」 「え?」 「え?」  キョトンと私を見返しながら、二の腕をプヨプヨとさわる瑞穂が可愛らしくてギュッと抱きしめた。  私も変わろう。  今からでも、私に出来る事をやろう――。 「言葉、ミスった。たくましくじゃなくて、心が柔らかでしなやかで、とても、とても」 「とても?」  耳元の瑞穂の声も潤んでいる気がする。 「とても大好き」 「なあちゃん、私も」  そう言って優しく抱きしめ返してくれた。 「これから、友達に、なってくれる?」 「……鉱くんとうまくいったら、ね」  フフフと耳元に息がかかり、くすぐったさと嬉しさで胸がいっぱいになった。 「ほんっと、瑞穂強くなったね」 「もお! 何年経ってると思ってるの?」と笑いあった。  私の知らない瑞穂は小学校の頃のように優しいけど、自分の気持ちをちゃんと伝えられる大人になっていた。  私も進まなきゃ。  鉱と……は、うまくいくかわからないけれど。  伝えてみないと、何もわからない。  ――私は目の前の咲き誇っている、大きな桜を抱きしめた。  私がこまめに診に来た桜は見事に満開を迎えていた。  宿泊施設の人たちと話し合って、綺麗な桜を咲かすためならば、と土壌改良の件も快諾してくれ正式に仕事として依頼してもらえた。  凄く、綺麗に咲いてくれた。  『ずっと、あの缶、持っていてくれてありがとう。あなたのおかげで……大事な友達と、また会えたよ』  心の中で、そう桜の樹に語りかける。  青い空に薄い桃色の花を揺らして、笑っているように見える。 「なあちゃん、まだぁ?」 「なあこ! おいてくぞ!」  校門の方から声をかけられ、振り向く。 「まって、今行く」  私は2人の元へ駆けていく。 「おまたせ! 行こっか?」  了
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加